第46話

「おまえが精霊使いであるわけがないっ! 大体話したようにみせかけただけだろう! そこの朝斗という側室のやったことを、自分の仕業にみせかけただけだっ!」


「俺はなにもしてないよ。それはルノール人ならわかってるはずだ。いや。ウィリアムにだってわかっていたはずだ。レスターの身体から、どれほどの気が発されていたか。あんな真似があんたにできるのか?」


 言い負かされたロベールが言葉に詰まる。


「レスター玉子、万歳っ!」


「レスター王子、万歳っ!」


 兵士たちから特女や特従たちから、次第にそんな声が広がっていき、それはやがて周囲に控えていた民たちにまで伝染し、物凄い歓声があがった。


 レスターは複雑な気分でそれを聞いている。


 ロベールの気持ちを思って。


「レスター。行こう」


 肩を抱いた瀬希をレスターが見上げる。


「そこで同情していたってなんにもならない。それにこれは一時的なものだろう? 精霊たちが再び暴れ出す前に宮殿に行った方がいい」


「そうだね。父上や母上が心配だし行こうか?」


 歩き出すレスターの顔を近付いてきた綾都が見上げた。


「大丈夫?」


「大丈夫だよ。綾は心配性だね」


「心もだけど身体もだよ。あれだけの気を発したんだから、疲れてるんじゃない?」


「疲れてる暇なんてない。それに不思議なほど疲れを感じないんだ。どうしてかな?」


「それだけレスターの精霊使いとしての能力が優れてるってことだろ。それにこれまで力を温存していたから、ちょっとのことじゃ疲れないだけの余裕もある」


「朝斗」


「大変なのはこれからだ。気を緩めるなよ」


「わかってる」


 それだけ答えてレスターは、臣下たちに指示し始めた。


 宮殿へ向かって。





 レスターたちがやっとの思いで辿りついた宮殿はひどい有り様だった。


 怪我人や病人などを搬送しているらしく、宮殿内部は民たちでごった返している。


 なによりも青ざめたのは朝斗の言ったように、宮殿を覆っていたはずの結界が無効になっていたことだ。

 

 ここまでの事態とは思わなくて、レスターは慌てて行き交う臣下たちに声を投げた。


「父上や母上はっ?」


 看護師役をしていたらしい特女が振り向いて驚愕する。


「レスター王子っ!」


「父上や母上はどうしてるのっ?」


 問われて侍女の顔が暗くなる。


 レスターはまさかと青ざめた。


「国王陛下はこの異常事態をなんとかなさろうと、それこそ連日連夜駆け回っていらっしゃいました。毎日のように大量の精霊を使役され、現在は過労のため床につかれています」


「母上は?」


「お倒れになった陛下の代理として動かれていて、現生は執務室にいらっしゃいます。ご自分では精霊を静めることはできないとおっしゃっていて、せめて怪我人や病人を癒せる召喚師ユニコーンを召還できればとおっしゃっていらっしゃいますが」


 ここまで聞いてレスターはウィリアムを振り向いた。


「ウィリアム大統領。あなたならユニコーンは召喚できますか?」


「できる。わたしはユニコーンの好む性別ではないが、わたしの召還獣の中にユニコーンがいるからな」


「つまり男性でもユニコーンは召還できるということですね?」


「ああ」


「ウィリアム大統類。大変申し訳ないのですが、怪我人や病人などの治療を任せても構いませんか?」


「構わない。そのためにきたようなものだしな」


 そう答えたウィリアムの周囲に魔法陣が浮かび、やがてユニューンが姿を現した。


 怪我を癒せる幻獣の姿を見て、沈んでいた人々が一斉に顔を明るくする。


 怪我の具合の酷そうな者、すぐにも死んでしまいそうな者のところへ、ウィリアムがユニコーンを連れて歩いていく。


 それを見送ってレスターは朝斗を振り向いた。


「朝斗。きみにもユニコーンを召還してもらいたいんだけどできる?」


「できるよ。なんなら大量に召還してやろうか?」


「可能なの?」


 驚いた顔のレスターに朝斗は小さく微笑んだ。


「レスターにも可能なことさ。召還師は己の力で召選するから、召還獣は一体しか呼び出せない。でも、俺やレスターは精霊の助力を受けるから、大量に呼び出すことが可能なんだ」


「じゃあ顔むよ。ボクも後で」


 言いかけたレスターを瀬希が遮った。


「いや。できたとしてもレスターは違うことをした方がいい」


「違うこと?」


「怪我人や病人の治療ならウィリアム大統顔や朝斗に任せればなんとかなる。レスターは精霊を静める方を、原因を解決する方を優先するべきだろう?」


「そうだったね。冷静さでは瀬希には敵わないな」


「すぐにレスターもわたしに追いつく。気にすることはない」


 ふたりのやり取りをみながら、我慢できなかったのかカインが口を聞いた。


「すまないが王妃陛下へのご挨拶は後回しにさせてもらう。おれも怪我人の治療に回る」


「では俺もそうしよう。カイン。わからないときは教えてくれ」


「わかった。行こう、アレク」


 そういってふたりが人込みの中に消えていく。


 レスターは深々とふたりに頭を下げた。


 すでに朝斗はユニコーンを大量召還して、人々の治療に当たっている。


 朝斗本人はまるで動いていないし、眼も閉じてしまっているが、ユニコーンを求める人々の声に合わせて動かしていた。


 それを見届けてレスターは兵たちも治療に走らせ、近衛隊長とロベール、そして瀬希と綾都だけを連れて母親の元を目指す。


 ルパートとルノエは朝斗の指示に従って動いているので、敢えて声はかけなかった。


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