第30話
「よく‥‥‥わからない。今のところは普通に成長できているけど、どこまで成長できるかは謎なんだ。なにしろ最上級の精霊使いで加護を与えられ、不老不死となったのはボクが初めてだから」
「つまり朝斗の成長加減もよくわからないということか」
深々とため息が出る。
「他人事じゃないぜ、瀬希皇子?」
「え?」
「あんた自分が歴史上で初めての四神の愛し子だって忘れてないか?」
「いや。だからなんだと言われても、そもそもその愛し子というのがなにを意味して、なにをなすものかもわかっていないわけだし」
「簡単に一言で言ってしまえば、四神に選ばれた不老不死で、この世で四神を召還して、その願いを叶えて貰える唯一の存在ってことだよ」
「‥‥‥不老不死? 四神を召還? わたしが?」
言われても瀬希には信じられなかった。
そんないきなり自分が不老不死で四神を召還し、四神教の重要な部分である願いを叶えて貰える資格を持つなんて言われても納得できるわけがない。
「あー。でも、どんな願いでもって言っても、主神がいればその願いには制限が生じるからな」
「何故だ?」
「主神が願わないことをあんたが願った場合は、四神もそれを叶えられないってことだよ。主神の方が位が上位なんだ。当然だろ?」
つまりどんな願いでも叶えたい場合、主神を味方につけるべきだということだ。
まあ自分はそんなに極悪非道な願いを持つ気はないが。
「要するに四神の愛し子というのは、四神を召還する資格を持ち、四神によって不老不死を与えられた四神教の申し子、という意味合いで合っているか?」
「合ってるよ」
「だったら精霊の申し子と最上級の精霊使いが愛し子になった場合の違いは?」
レスターに問われて朝斗は、ちょっと黙り込む。
「その辺は‥‥‥ごめん。よくわからない」
「わからないって‥‥‥」
「俺もすべてを理解してるわけじゃないって言っただろ? 瀬希皇子の言った四神教の申し子にしたって、他にもなにか意味があった気がする。でも、わからなくて」
「そう‥‥‥なんだ?」
「ただ鍵っていう言葉が脳裏をチラつく」
「「鍵?」」
「俺たちがここにいるのは鍵が揃ったから。それは間違いない」
それはどういう意味を持つだろう?
「ただどういう意味で鍵だったのか、鍵が揃ったらどうなるのか、その辺が俺にもよくわからない」
「そちらのふたりもか?」
「すみませんが朝斗様が思い出していないことなら、わたしたちには教えることができません」
「時が満ちていないということですからね」
上手く躱されてしまって瀬希は複雑な顔を背ける。
結局肝心なところはなにもわかっていないと気付いて。
「でも、四つの宗教なのに鍵がふたつっておかしいね」
「レスター王子?」
「レスターでいいよ、瀬希皇子。その代わりボクも瀬希って呼ばせて貰うけど、いい?」
「別に構わないが。鍵がふたつって?」
「だから、さっきからの話を総合するに鍵ってボクと瀬希のことだよ」
「わたしたちが鍵?」
「ただその場合、ボクが全世界精霊教、つまり火風霊、地水霊の鍵ということになって、瀬希が四神教、つまり四聖獣の鍵ということになる。だったら主神の鍵は?」
「宗教が四派に分かれたなら、残る鍵はふたつ?」
「多分そのどちらかが主神の鍵、もしくはその残るふたつが主神の鍵なんだと思う。現状から導き出せば、それはそれぞれの宗教を代表する人物の誰かということになるけど」
「まさか‥‥‥ウィリアム大統領?」
ルパートの信じられないという声にレスターは苦い顔を向ける。
「その可能性は否定できないね。彼ほどの召還師は他にいないからね」
「となるとイズマル教の鍵は‥‥‥まさか」
瀬希の脳裏に油断ならない青年の顔が浮かぶ。
「そのまさかの可能性が高いと思う。如何にもって感じでしょ?」
言われてみればそうなのだが、もっと扱いやすい人物ではいけないのだろうかと瀬希は思わずため息をつく。
ウィリアムはよく知らないが、アレクはとにかく扱いづらい。
しかも彼はイズマル教を唯一絶対の宗教と信じていて、凄く信心深いと聞いている。
こんな現実を聞かされたら、物凄い拒絶反応を見せるんじゃないだろうか。
「ウィリアムとアレクか。そうか。その可能性が残っていたか」
いつのまにか朝斗は瀬希以外に敬称をつけなくなっている。
これも意識の変化だろうか。
瀬希が本当に四聖獣の鍵で、朝斗はまだ認めていないが、彼が四聖獣であった場合、朝斗にとって瀬希は見逃せない人物という意味になるから。
朝斗に突っかかられていたのは、もしかしてそういう関係だったからかなと、瀬希はなんとなく考えた。
だとしたら綾都がアレクに執着される理由もわかる。
綾都がもし考えている通りの人物だとしたら。
レスターと瀬希は顔を見合わせて、どちらからともなくため息をついてみせた。
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