第40話






 意識が覚醒していくとき、ざわざわと声が聞こえていた。


 犯人は覚醒のままで綾都は、その声を聞いている。


「だから、どうしてもルノールの大神殿に行かないといけないんだ。頼むから協力してくれ、レスター」


「だけど最上級の精霊使いそのものが伝説だし、四精霊の加護を受けたことまで明らかにするのはさすがに」


「レスターはもしかして精霊だと明かしても、加護を受けたことだけは言わないつもりだったのか?」


 この声は瀬希皇子?


 最初に声を出したのが朝斗、次がレスターだから、どうやら3人で話し込んでいるらしい。


 ルパートたちはいるのだろうか。


「最上級の精霊使いが加護を受けた前例はないからね。もしも明かしたら大問題になる。だから、それだけはしないつもりだったんだけど」


「だけど、加護を受けたのが俺だけにしたってことにしたら、レスターの立場がないだろ? 最上級だと明かしても、俺の方が重要視されかねない」


「それはそうだけど」


「ルノールの大神殿のどこに四神はいるんだろう。四神を召還しないことには綾を健康にできないし」


 最後の悩んでいるような瀬希皇子の声に、反射的に綾都は飛び起きて叫んだ。


「ダメだよっ! 瀬希皇子はルノールに行っちゃダメ!」


「「綾?」」


「どうしたの、綾? どうしてダメなの? 瀬希がいないと四神を召還できないんだよ?」


「ダメだって! だってルノールの大神殿ってあそこでしょ? 四方に聖火の灯されてるところ」


 この綾都の発言には、レスターは顔色を変えた。


 それはルノールでも一部の者しか知らないことだからだ。


 聖火がどこにあって、どうやって管理されているか。


 それを知っているのは一部の神官と王家の者だけだった。


「どうして綾がそんなことを知ってるの? ルノールでも一握りの者しか知らないことたよ? ボクは言ってないよね?」


「今、大神殿に行って来たから」


「行ってたってどういうことだよ? 綾? まさか幽体離脱してたのか?」


 兄に怒鳴られて綾都は小さくなる。


「ごめんなさい。言えば兄さんに心配かけると思ったから」


「つまりこれまでにも何度もやってたんだな? 綾都?」


「やってたっていうか、無意識? 自分の意思ではできないよ」


「幽体離脱? 言葉通りに判断すれば幽体が、魂が肉体を離れることだか、そんなこと可能なのか?」


 瀬希皇子が首を傾げている。


「可能かどうか聞かれても、実際にやってだことだけど?」


「ちょっと待って。今大事なのはどうして綾が、ルノールの大神殿に行ってたかってことだよね? そしてそこでなにを知ったのか。話して? 綾?」


 レスターに言われて綾都は彼を見上げる。


「ルノールでは大神殿にある聖火って、神の恩寵の証とされていて、とても重要視されてるんだよね?」


「うん。聖火か消えるのは国が滅ぶ前兆とも言われてるからね」


「だったら瀬希皇子は絶対にルノールに行っちゃダメ! 行ったとしても大神殿には近づいちゃダメ!」


「だから、何故だ? ルノールに行ったところで、わたしにできることなんて、たかが知れてるんだ。それでどうして」


「聖火の源が四神だからだよ」


 綾都が断言して四神について詳しい朝斗が顔色を変えた。


「待てよ。じゃあ瀬希皇子が四神を召還すると聖火は消えるのか?」


 受けてレスターが真っ青になった。


 そのくらいルノール人にとっては、重要な内容だからだ。


「そうだよ。瀬希皇子が四神を召還すると、聖火から四神が飛び出してくるから、そうすると聖火は消える。ルノールにとって聖火の化身となっている四神を召還する瀬希皇子は、不吉の象徴なんだよ」


「わたしが不吉の象徴」


「聖火が消えれば、ルノールは大混乱に陥る。そんなことって」


 レスターは頼りなくかぶりを振る。


「大丈夫。もし瀬希皇子が四神を召還しても、召還された後で四神が聖火を灯してくれるから。そう約束してもらったし」


「お前。四神に逢ったのか? 綾?」


「東の水神とだけ? 他の三神には逢えなかったよ」


「お前が今、東の華南にいるからだろうな、それで? 聖火はもう一度灯されるのに、それでも瀬希皇子は不吉の象徴のままなのか?」


「一度消えるのは避けられないから。そうしたらルノール人は、聖火を消した瀬希皇子を不吉と判断して命を狙う。そうだよね、レスター?」


「ボクに言われても」


 できればそんな真似はさせたくないレスターである。


 聖火の源が本当に四神なら、それを瀬希皇子が召還するのは、華南にとっては当然の権利だから。


 再び聖火を灯してもらえるなら、レスターとしては大事にはしたくない。


 一度消えたことさえ伏せられたら、問題はないはずだから。


 でも、他のルノール人にとっては、一度とはいえ聖火が消えることが問題なのだ、


 聖火の源が四神であろうと、それを維持してきたのは自分たちだと思っているだろう。


 これはややこしいことになった。


 簡単にルノールに行けばいいという問題でもなさそうだ。

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