第12話
「貴方の気持ちはわかるが、それは逆にロベール卿を傷付ける」
「え?」
「貴方がどれだけ隠そうと貴方が精霊使いであることは事実だ。何れ隠せなくてバレるときがきっと来る。そのとき否応なしに貴方の精霊使いとしての高い能力を見せ付けられた方が、ロベール卿にはきっと衝撃的なことだろう」
「ボクのやり方はロベールを逆に傷付ける?」
頼りない声に瀬希は頷いた。
「貴方は……見たんだろう? 綾が精霊に触れてなにが起きたか。ふたりが精霊とどんな会話をしたか、全て見たし聞いた。だから、ロベール卿や他のルノール人とは感じ方が違う。違うか?」
「そうです。ですからボクが意識しているのは朝斗様ではなく綾都様です。あんな現象はボクは知らない。精霊に触れただけで光輝かせ、その力を増幅させる。そんな加護を与えられる人間なんてボクは知りません。まして精霊に敬語を使われ、敬意を払われた上に永遠の忠誠を誓われるなんて、既に常識の枠を越えている」
「……なるほど」
瀬希はため息をついて綾都を見た。
それが本当なら見ていたのが、理解できたのがレスターひとりで助かったかもしれない。
人々は朝斗という目眩ましに引っ掛かって、本当に驚異を抱くべき綾都には注意していないということだから。
「でも、意識してしたわけじゃないんだよ? ぼくだってなにがなんだか」
「それは知るべきことかどうか、それを判断するのはボクではなくあなた方です、綾都様」
「ぼくら?」
「力があるのは事実。その力故にあなた方は、これから国々の争いに巻き込まれていくでしょう。まずは朝斗様」
「俺?」
朝斗が自分を指差す。
頷いてレスターはため息をつく。
「貴方はご存じないかもしれませんが、精霊が貴方にしたことは、貴方に加護を与えること。そして最初に全ての精霊が、貴方の頬に口付けたのは、最上級の精霊使いに対する精霊たちの親愛の情の表現です」
「俺が最上級の精霊使い? 有り得ないだろっ!!」
「貴方にとってはそうかもしれない。でも、あの場面を見ていたロベールにとっては、驚異だということを理解してください」
断言されて朝斗は言葉を詰まらせた。
「こんなことを言うのは、国の軍事事情を打ち明けるようで躊躇われるんですが、現在最上級の精霊使いというのは、ボクを除いて存在しません」
「凄いな。レスター王子は最上級の精霊使いだったのか。それはまああの場で起きたことも、全て理解できるだろうな」
最上級の精霊使いとは、ある意味で召還師でもあると聞く。
精霊たちの力を借りて召還術をも行使する者。
それこそが最上級の精霊使い。
上級との区別はそこにあった。
それだけに力は段違いで、最上級の精霊使いひとりで、一軍以上の働きができる。
この王子はルノールのただひとりの最上級の精霊使いなのだ。
それを隠しているのだから、並々ならぬ努力をしているのだろう。
「ですからロベールは貴方を狙うかもしれないと、そう言っているんです。朝斗様」
「俺にはそんな力なんて……」
「そうですね。あるかもしれないしないかもしれない。寧ろボクが恐れているのは綾都様の方ですし。綾都様の力こそ常識では推し量れない」
「ぼくは普通だよ?」
理解しない綾都の無邪気な瞳にレスターは笑う。
「貴方は不思議な人ですね。でも、瞳に独特の光がある。力があるのは事実でしょう」
「力があっても綾は役立たずだろう」
瀬希が無情なくらいにキッパリと断言する。
綾都はムッとしたがレスターは不思議だった。
綾都を護るためでもなさそうな、本心から言った言葉に聞こえたからだ。
「どうしてですか?」
「そちらが秘密を明かしたから、こちらも打ち明けるが、綾は……身体が弱いんだ」
「虚弱体質?」
見られて綾都は眼を逸らす。
「もし本当に綾都がそれだけ脅威的な力を秘めていても宝の持ち腐れだ。おそらく体力が続かなくて、ろくに使えないだろう」
「そうだったんですか」
確かにそれでは宝の持ち腐れだ。
折角の力も発揮できないのでは意味がない。
「取り敢えず忠告は感謝する。朝斗が狙われているとなると、綾が狙われる確率も増すからな。朝斗を従えるために弱点となる綾を先に狙う可能性もあるし、ひとりよりふたりと判断されても不思議はないから」
「それと朝斗様にもうひとつ忠告が」
「なんだよ?」
「貴方は精霊の四大と言われる四精霊に加護を与えられました。おそらく全世界精霊教の理の影響は、貴方には通じない。それだけ異端視される恐れがあるということを常に意識しておいて下さい。ボクも出来る限り庇いますが、あなた方は余りにも普通ではない。庇いきれる自信はないので」
「全世界精霊教の理の影響……ねえ」
その知識なら朝斗の中にはある。
こちらで学んだからだ。
それはすべての精霊を操れる上に、全ての精霊の力を無にできるということだ。
それは最上級の精霊使い以上に求められている存在だと歴史書には書いていた。
なんてことだ。
あのときの加護がそんなものになるとは。
頭が痛くて朝斗はため息をついた。
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