第2話 プロローグ2
>>条件:スキル主の死亡を確認
>>スキル:〈リターン〉が発動
>>メモリポイントにて復帰します
>>メモリポイントとの距離がありすぎたため
>>ステータス情報がロストしました
それは初めて見るメッセージだった。
ハンターはネット上で情報発信を行っており、ごく希にポップアップが出現するという情報も発信されたことがある。
しかし、このようなメッセージはこれまで一度たりとも発信されたことがなかった。
「リターンって、俺のスキルと同じだな。……もしかして、このスキルは俺が――」
「はろー、明日斗! オイラが見えるか? 聞こえるか?」
「――ッ!」
横から聞こえた愛らしい声に、明日斗は息を呑んだ。
「オイラはお前のガイドを務める、アミィだ。宜しくな!」
「……」
背中に生えた羽、ぱっちりと大きな瞳。ぬいぐるみのように愛らしい輪郭。
体長二十センチほどのその生物は、覚醒者にのみ認識出来るシステムガイド。
一般では天使と呼ばれている。
天使を初めて見た時の明日斗なら、『これがハンターが言ってた天使か!』と興奮したものだ。
しかし現在、その胸にあるのは、全身が凍るほどの憎悪のみ。
(こいつが……)
人間を欺し、陥れ、人類を破滅に追いやった元凶だ。
空にひしめいたあの魔物はすべて、ハンターから離脱しこの世に具現化したガイドだったのだ。
自らの元を離れるときの、アミィの蔑んだ目を、明日斗は今でもはっきりと覚えている。
あの時恐怖で凍り付いた激情が、溶けて一気に溢れ出した。
明日斗は天使に手を伸ばす。
しかしその手は天使をすり抜け空を切る。
「なんだよ明日斗。もしかして、握手か? わりぃな、オイラは別次元の存在だから、直接触れられねぇんだよ」
天使アミィがかわいらしく肩をすくめた。
それは何も知らなければ、愛玩動物のように無害な生き物だと信じただろう。
だが明日斗は、アミィの本性を知っている。
彼らは、人間を信じ込ませた後で、皆殺しにするつもりなのだ。
だからといって、現時点でこの天使をどうにかする術はない。
天使を殺す武器も、魔術もない。どのような攻撃も、彼らに直接ダメージを与えられるものはない。
また、たとえハンターサイトで天使の狙いについて情報を流したところで、誰一人信じてはいないだろう。
なぜなら、ハンターが初めて地球に出現した第一次アウトブレイクから五年後の現在、天使を疑うハンターなど、どこにもいないからだ。
皆、天使が無害な共存者であると、すっかり信じ込んでいる。
それだけ天使は巧みに人間の信頼を勝ち取ったのだ。
――そうして最も信頼した瞬間に、地獄の底へ突き落とされた。
「ところで明日斗。いきなり覚醒して困ってんじゃねぇか? オイラがシステムの説明を――」
「結構だ」
システムについては、熟知している。
いまさら説明を受けるものではない。
「い、いやいや、ちゃんと聞いておいた方がいいぜ?」
「いらない」
「絶対に困るから聞いておけよ」
「頼む、黙ってくれ」
「……なんて奴だ!」
驚愕に目を見開く天使をよそに、明日斗は思考を巡らせる。
(さっきのポップアップ、それにこの状況)
東京が滅んだのは、明日斗が覚醒してから十年ほど後だ。
もしここが現実なら、十年前に戻ってきたことになる。
(ここは確か……IT会社だったっけ?)
覚醒時、明日斗はとある会社の面接に訪れていた。
日雇い労働生活から抜け出すために、まともな仕事を探している途中だった。
(そうだ、思い出した。面接の手応えが悪すぎて、落ち込んでたんだっけ)
『大学を卒業してなければ、23才なのに正社員の経験もなし』
『やる気があるとか、人一倍努力するとか、それ、みんな出来てて当たり前のことだから』
『性格、真面目ねえ。真面目なのに、正社員経験はないんだ? 本当は不真面目なんじゃない?』
『……で、君、なんでうちの面接に来たの?』
ほとんど嫌みと説教で終わった面接だった。
傷心した明日斗は、せめて良い会社のビルの屋上から見える街の風景を、目に焼き付けようと思ったのだった。
「まさか、これまでどうやっても使えなかったゴミスキルが、最後の最後で発動するとは」
スキルの発動条件が『自分が死亡すること』だったなんて、死ぬまで気づきようがない。
しかし、これはチャンスだ。
以前は覚醒時からカースト上位へのレールを外れてしまったが、今は違う。
今の明日斗には未来の知識がある。
まだ誰も知らないスキルや、攻略法を心得ている。
――それに、滅びの未来も。
(今から頑張れば、強くなれる!)
破滅を受け入れることしか出来ない未来を、否定する。
そのためにも、誰よりも強くならなければならない。
「ああ、説明する前に始まっちまった!」
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