第4話 プロローグ4
「うわっ、この笛、反応良すぎ……」
一体のグレイウルフが襲いかかてきた。
「うわ、危なッ!」
寸前のところで〈跳躍〉。
塀に飛び乗り回避した。
周りには既に五体のグレイウルフがいる。
レベル1で、武具もないハンターにとっては絶体絶命の状況だ。
にも拘わらず、明日斗はさらに犬笛を吹き鳴らした。
「まだまだ!」
塀の上を走り、〈跳躍〉。
グレイウルフに囲まれないよう気をつけながら走り抜ける。
時々回り込まれそうになったら即座に〈跳躍〉。
次第にスキルの熟練度が上がり、〈跳躍〉出来る距離も伸びてきた。
(これなら、いけるか)
〈跳躍〉で七メートルほど飛べるようになった頃、明日斗は目的地に到着した。
そこは少し前に廃業した、ガソリンスタンドだ。
作戦決行にこれ以上ふさわしい場所はない。
スタンドの屋根に登った明日斗は、息を整えながら周囲を見渡した。
近くにはビルが一棟と、建築予定地の空き地。それと民家が並んでいる。
このあたりには、人の姿がほとんどない。
警報を聞いて、近くのシェルターに逃げ込んだのだ。
「よかった。人がいたら作戦が使えないところだった」
胸をなで下ろし、明日斗はインベントリを確認しながら、犬笛を鳴らし続ける。
○ランタン
説明:火を灯す魔道具。暗い洞窟探索にぴったり。衝撃に弱いため、乱暴な扱いは厳禁。最大24時間使用で火が消えます。使い捨てタイプ。
○水
説明:100リットル入の、ただの飲料水。味は水道水よりはマシという程度。使用方法簡単、カートから少しずつ注ぐだけ。力加減を間違えると、一気に全部放出するので要注意。
「それで、そのゴミをどうすんだよ?」
「こうするんだよ」
これまで、何度も考えてきた。
あの時、ああいう道を選択をしていたら、未来は変わっていただろうか?
こんな方法を使ったら、今とは違う自分だっただろうか?
その夢(いふ)を、叶えられる瞬間が来た。
過去は変えられない。
――普通ならば。
明日斗はスキルのおかげで、過去に戻った。
未だにこれが、現実かどうかがわからない。
だが、そんなものはどうだって良かった。
自分は今、かつて夢見た最善を選択出来るのだから!
明日斗は執拗に犬笛を吹き鳴らし続ける。
グレイウルフが次ぎから次へと、ガソリンスタンドに集まってくる。
(この音が届く範囲の魔物は、すべてこの場所に呼び寄せる)
五分ほどした頃、どれだけ犬笛を吹いても新たなグレイウルフが出現しなくなった。
どうやら、犬笛が届く範囲の個体はすべてこの場に集められたようだ。
「……今ここから降りたら秒で骨まで食べられるな」
建物の下には、おびただしいグレイウルフがひしめき合っていた。
近くの空き地までびっしり。まるで蠢く絨毯だ。
「もったいぶっておいて、まさか助けを待つつもりじゃねぇだろうな?」
「それも手だな。少し待てば、強いハンターが駆けつけてくるだろうし」
第一次アウトブレイクで覚醒したハンターたちの実力は相当だ。彼らが集まれば、さしたる被害を出さずに、この場にいるグレイウルフを一掃出来るだろう。
「なあんだ。自分から倒すつもりはなかったのか」
「そんな手もあると言っただけだ。だが――」
それは面白いのか?
他人に助けてもらうことが、自分にとっての最善の結果か?
――いいや、違う。
明日斗はハンターになりたかった。
魔物を倒し、人を守る。そんなハンターに、憧れていた。
決して、魔物を前に助けを求めるハンターになりたいわけじゃなかった。
「こんなチャンスを、みすみす逃すのはもったいないだろ」
もしも、だ。
アウトブレイクで出現した魔物をすべて倒せたら、それほど最良のスタートを切れるだろう?
今から数年後、ネットに低ランクモンスターの衝撃的な攻略法がアップされた。
その動画を見た明日斗は悔やんだ。
(もしあの時これが使えていたら……)
きっと自分はもっと強いハンターになっていただろう。
そう思わない夜はなかった。
前回、夢にまで見たシチュエーションを、叶えられる。
その興奮を抑えながら、明日斗は口の端をつり上げた。
「ここのモンスター、全部頂くぞ!」
インベントリの口を開け、明日斗は下に向かって水を一斉に放出した。
たかが百リットルの水をぶちまけたところで、グレイウルフにダメージを与えられるはずもない。
逆に彼らの憎悪を煽るだけだ。
――殺してやる!
激しい敵意が一斉に明日斗に向けられた。
だが、それらを一切を無視してカートからランプを取り出した。
ランプに火を灯し、明日斗は前に掲げた。
「誰が全部頂くって? お前、舐めてんのか?」
「まあ、見てなって」
そう言って、明日斗は手にしたランプを屋根の上から手放した。
同時に、動く。
全力で走り、屋根の端で全力〈跳躍〉。
「うおおおおおお!!」
腕をクロスして、隣のビルのガラスに突っ込む。
――バリィン!!
体のあちこちが、割れたガラスで切り刻まれた。
さらに肩から落下。
けれど、溢れ出したアドレナリンが痛みを消す。
地面を転がり、壁際でうつ伏せになった。
耳を塞ぎ、口を半開きにして呼吸を止めた、次の瞬間だった。
――ッドゴォォォン!!
真っ青な光。地響き、激しい突風が吹き荒れる。
ガラスというガラスが割れ、ビルの中に青い炎が流れ込む。
青い炎は、すぐに白く変化した。
激しい熱気が体を焦がす。
(ぐぅ……ッ!!)
ビルが大きく揺さぶられ続ける。
揺れと、熱が、いつまでも続くように思われた。
だが明日斗はじっと、地獄のような状況に耐え続けた。
ドッ、ドッ、ドッ……。
心音がやけに大きく響く。
やがて、爆風が起こった反対側から、涼しい風が流れ込んできた。
その風が白い煙を外へ流していく。
さらに十秒数えた後、明日斗は止めていた呼吸を再開させた。
「ふぅ。死ぬかと思った」
起き上がると、ビルの内部にあったオフィス用品がすべて吹き飛ばされていた。
どこかでパチパチと音がする。火がくすぶっているのだ。
「お、おい、お前……一体なにをやらかしたんだよ……」
窓の外を見たアミィが、大きく目を見開いている。
彼が何に驚いているかは、既に明日斗も想像が付いている。
「何って、決まってるだろ。ハンターの仕事――魔物討伐だ」
外には、先ほどまで外にいたおびただしい数のグレイウルフの死体が散乱していた。
明日斗はこれまで集めたグレイウルフを、爆発で一網打尽にしたのだ。
「いやいや、そうじゃなくて、どうしてランプを落としただけであんな大爆発するんだよ!? もしかして、ガソリンに引火でもしたのか?」
「いいや、それは違う」
爆発したのは、ガソリンではない。そもそも廃業済みのスタンドなので、ガソリンなど残っていない。
では、何が爆発したのか?
答えは、ランプだ。
ランプは魔術的な技法で作られた魔道具だ。
燃料には大量の水に触れると激しく反応する魔術物質が使われている。
明日斗がランプを落とした際に本体が破損し、燃料が漏れ出し水に触れ、大爆発を起こしたのだ。
(この方法でグレイウルフを一斉に倒す動画を見たことがあったけど、まさか爆発がここまで大きいとは思わなかったな……)
今から数年後に、うっかりランプを壊してしまった冒険者が偶然発見するまでは、この現象を知っている者はいない。
しかし、未来を知っている明日斗は違う。
(未来の知識を使えば……きっと)
明日斗は空に手をかざし、ぐっと拳を握りしめた。
――誰よりも強くなれる!
「死ぬかと思ったけど、レベルもたくさん上がったし、予想外の収入もあった」
やってよかった。
ステータス画面を見て、明日斗はにっこり微笑むのだった。
>>新たな偉業を達成しました
・百体以上の魔物を一度に討伐
報酬:1000G獲得
・アウトブレイクの魔物にとどめを刺す(346/100体)
報酬:筋力+3
・覚醒してから人類最速でFランクに到達
報酬:敏捷+3
○名前:結希 明日斗(20)
レベル:1→11 天性:アサシン
ランク:G→F SP:0→50
所持G:30→1064
○身体能力
筋力:2→5 体力:2 魔力:1
精神:1 敏捷:7→10 感覚:1
○スキル
・跳躍Lv1(51、5%)
・記憶再生Lv1(1、1%)
・リターンLv1(0%)
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