第14話 大金こわい

 買取店で魔石を売却し、街中を歩く。

 45個の魔石は、明日斗にとってかなりの金額になった。


「どうしよう……。こんな大金、もったことない!」

「おうおう、そんなにビクビク歩くなみっともねぇ……」

「し、仕方ないだろ! 2万円なんて久しくもったことないんだから!」


 前回、明日斗は最後の日まで日雇い労働に従事していた。

 日当は一万円だが、謎の天引きがあり八千円しか貰えなかった。


 夜はネットカフェで眠り、食事はスーパーの半額商品を購入する。

 それでも一日過ごせば残金は半分になる。


 日雇い労働は、毎日仕事がある保証がない。

 突然明日は来なくていいと言われることがしばしばあった。


 そうなると、大変だ。

 せっかく増えたお金が、あっという間に底を突く。


 そんな生活を続けた明日斗にとって、二万円はとてつもない大金だった。


「どうしよう、盗まれるかも」

「そんなに挙動不審だと、逆に盗んでくださいって言ってるようなもんだろ」

「うぐ……」

「こりゃ盗む奴も災難だな。とてつもない大金があると思って盗んでみたら、たったの二万円なんだからよ」

「ぬぐぐ……」


 ぐうの音も出ない。

 明日斗は何も言えず、奥歯を噛んだ。


「にしても、そんな金でそこまで怯えるたぁ、お前どんな極貧生活してたんだよ」

「…………」

「両親は?」

「……いないよ」


 第一次アウトブレイクで両親を失ってから、明日斗は地獄のような毎日を過ごしてきた。

 きっといつか、普通の生活が出来ると夢見て、必死に働いた。


 ハンターとして覚醒した時、底辺から浮上するチャンスを得たと喜んだ。

 だが、結局今から十年後まで地獄は続いた。


 明日斗は死ぬまで、何も変わらなかった。


「わりぃ、滅入ることを聞いちまった」

「……いや、気にするな」


 通りには高層マンションが並んでいる。

 その駐車場には、ベンツやBMW、ボルボにレクサスが並んでいる。

 一体どうやったらこんなマンションに暮らして、こんな高級車を乗り回せるのだろう。まるで想像出来ない。


 だが、明日斗は意地でもそちら側に行かなければならない。


 ハンターとして活動する上で、資本は重要だ。

 資本があれば、いくつもスキルが手に入るし、強い装備でがっちがちに固めることも出来るからだ。


 資本力にものを言わせて成り上がったハンターもいるくらいだ。


 現在世界では、魔物を倒すと低確率でドロップする素材を利用した、ハンター専用の武具開発が盛んだ。


 地球にある素材で作った武具でも、使えないことはない。

 たとえば銃火器系は、ダンジョンの中でも使える。

 しかし地球上の素材で作った武具は、対魔物では極端に性能が低下してしまうのだ。


 性能低下の原因は、次元の相違が関係しているのではないかと言われているが、真偽の程は確かではない。


 さておき、魔物の素材で作られた武具は、ゴールドショップのそれと同様に、ハンターにとって欠かせない。

 特に所持ゴールドの少ないハンターにとっては、頼みの綱である。

 資本力があれば、こうした武具を購入して一気に強くなれるのだ。


 武具ショップにやってきた明日斗は、陳列された武具を物色していく。


「……やっぱ、いいものは高いな」


 これは! とぴんと来たものに限って、値札には見たことがないほどゼロがたくさん並んでいる。

 だからといって値段で絞ると、ピンと来るものがなくなってしまう。


「はあ……駄目か」

「何を悩んでんだよ」

「ん、新しい武器が欲しいんだけど、お金がなくてな……」

「なんだ。そんなことだったら、ゴールドで買えばいいだろ。このへんにある武器なんかより、よっぽどいいもんが買えるぜ?」


 明日斗がいるのは、初心者向けの武器が置かれた棚だ。

 値段は五万円から、十万円まで。


 この価格帯の武器と比較すると、たしかにアミィの言葉通りゴールドショップの武器の方が性能が良い。


 二万円もの(明日斗にとって)大金があっても、良い武具が購入出来ない。

 そのことに、彼我の差をまざまざ見せつけられた気がした。


「それはわかってるんだけどな」

「じゃあ何を悩む必要があるんだよ」

「武器を買ったら、スキルが買えなくなるだろ」


 現在の所持ゴールドは約1500。

 これで良い武器を買うと、スキルが買えなくなる。


 百万種類あるスキルの中には、替えが効かない特級スキルもある。

 その特別なスキルを、いち早く手に入れたい。

 せめてAランクになるまでは、新しい武器の購入にゴールドを消費したくなかった。


「……仕方ない」


 新しい武器購入を一旦諦めて、しばらくは魔石でお金を貯める他あるまい。


(新しいゲートって、どこに出現するんだったかな)


 明日以降に出現するゲートがないか考える。

 すると、いくつか攻略出来そうな候補が思い浮かんだ。


(明日がBランク、明後日がE、その次となるとCランクが来週か……)


 すぐにでも稼ぎに行きたいが、Bランクは論外だ。

 そこは、攻略すると最高峰のアイテムが手に入るゲートだ。もし売却すれば、一千万円近い値が付くはずだ。

 しかし現在の実力では魔物を倒すことすら出来ず、死に戻るだけでなんの成果も上げられないに違いない。


 ゲートが攻略出来ないのなら、権利を売却するという手もある。

 だが、あまりに立て続けに明日斗がゲート出現現場に居合わせると、間違いなくアミィに感づかれる。


 どんなスキルかまでは確定出来ないだろうが、今後の活動がやりづらくなる可能性が大いにある。


 もっと効率的かつアミィに疑われないようにゲートを回り、お金を貯める方法はないか。

 考えていた時だった。


「あの……」

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