第6話 下準備

 今日は3話更新。いいところまで進めます。

 2話目は12時頃。3話目は18時頃更新です。


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 ハンター登録を終えた翌日、明日斗はとある丘の上にやってきた。


「こんなところに来て、どうすんだよ。せっかくハンター登録とやらが終わったのに、ゲートにいかねぇのか?」

「ただゲートに行っても意味ないんだよ」


 現在出現しているゲートは、既に他人かハンター協会が所有権を持っている。

 ハンター専用サイトのオークションで権利を購入しない限り、勝手にゲートに入るのは法令違反になってしまうのだ。


 ゲート以外に、ハンターがレベリング出来る場所が二つある。

 ――ダンジョンと、〝外〟だ。


 ダンジョンは魔物を狩り尽くしても消滅しない空間を指す。

 ハンター協会が管理するダンジョンであれば、誰でも入場出来る場所がある。

 しかし、


(何度も足を運んだけど、モンスターがポップした瞬間から奪い合いになるんだよなあ……)


 入場制限がないせいで、ハンターが密集しすぎているのだ。


 かといって協会が管理していないダンジョンもあるが、こちらは大手ギルドが独占しているため、個人では決して入場出来ない。


〝外〟とは、放棄地のことだ。


 第一次アウトブレイク後、日本は多くの土地をモンスターに明け渡した。

 ゲートはどこであろうと関係なく出現する。


 人の多い地域は問題ない。

 だが過疎地域では、ゲートのブレイクを安定して防げない。

 ブレイクして魔物を倒し、またその間にブレイクして……といういたちごっこは、ただハンターや住民が疲弊するだけだ。


 そのため国は一部地域の放棄を決定し、巨大な壁を建造した。

 巨大な壁の外側は、ゲートブレイクにより出現した魔物が跋扈している。

 そんな外側の地域であれば、自由に狩りが出来る。

 しかしCランク以上のハンター証がなければ、門の通行許可が下りない。


 ――明日斗にとって、最も縁遠い場所だ。


 前回の明日斗は、どの選択肢も選べなかった。


 戦闘用のスキルを持っていなかったし、希少な天性を得たわけでもない。装備を調えるお金だってなかった。


 自分と同じ能力のハンターなど五万といたし、自分より優れたハンターも五万といた。

 ――自分が選ばれる理由が、なかった。


 自由な選択肢のない明日斗は、結局十年かかってもレベル9までしか上がらなかった。


 しかし、今回は違う。

 今の明日斗には、未来の記憶がある。

 スキル〈記憶再生〉があれば、いつどこで、どのようなゲートが出現するのかがわかる。


 たとえば第二次アウトブレイクの翌々日、今から数時間後に、とある丘の上にゲートが出現する。

 ――この場所だ。


 もしゲートを一番最初に発見すれば、そのゲートの所有権が得られる。

 ハンターサイトを使えば所有権を売却出来るし、自力で攻略することも可能だ。


 当然ながら、ゲート売却などつゆほども考えていない。

 レベルを上げるチャンスなのだ。権利を手放すなんてもったいない。


(自由に出来る力を、存分に活用してやる)



「……お前は一体、何をしてるんだ?」

「街を見てる」

「はあ」

「いい眺めだろ?」

「知るか!」


 つっけんどんなアミィの態度に内心舌打ちをし、明日斗はステータスボードを開いた。



○名前:結希 明日斗(20)

 レベル:11 天性:アサシン

 ランク:F SP:50

 所持G:1064

○身体能力

 筋力:5 体力:2 魔力:1

 精神:1 敏捷:10 感覚:1

○スキル

 ・跳躍Lv1(51、5%)

 ・記憶再生Lv1(1、1%)

 ・リターンLv1(0%)



(ここに出現するゲートは、たしかFランクのハンターが権利を買って、パーティでクリアしてたな。さすがにこのままだと攻略は出来ないな)


 筋力、体力、敏捷は文字通り、肉体の性能を底上げする。

 魔力は魔術の威力や使用回数を上げ、精神は魔術への抵抗性を上げる。

 感覚は相手の攻撃や気配を察知しやすくなる。


 天性がアサシンの明日斗は、筋力、体力、敏捷、感覚をメインに上げて行けば問題ない。


 ステータスポイントを40割り振り、残る10ポイントは予備として残しておく。



○名前:結希 明日斗(20)

 レベル:11 天性:アサシン

 ランク:F SP:50→10

 所持G:1064→164

○身体能力

 筋力:5→15 体力:2→12 魔力:1

 精神:1 敏捷:10→25 感覚:1→6

○スキル

 ・初級短剣術Lv1(0%)

 ・回避Lv1(0%)

 ・跳躍Lv1(51、5%)

 ・記憶再生Lv1(5、1%)

 ・リターンLv1(0%)



 続いて画面をスワイプし、ショップを開く。



○カート

 ・スキルスクロール013245番 100G

 ・スキルスクロール019486番 500G

 ・鉄の短剣 300G

○合計 900G


>>購入しますか?

>>YES/NO


「いや、二回目だから驚かねぇけどよ……」

「どうした?」

「なんでマスキングされてるスキルを、悩みもせずカートに突っ込めるんだよ!」

「ネットに情報がアップされてるからな。必要なスキルは覚えてる」

「オイラの、存在意義……」


 アミィががくっと肩を落とした。

 天使は覚醒者をサポートする役割がある。


 システム上数字でマスキングされているスキルや、天性にあった育成方針などを、〝嘘を吐かずに〟教えてくれる。

 しかし、嘘を吐かないからといって、天使が教えてくれることが必ず〝正しい〟という保証もない。


〝嘘ではないこと〟と、〝正しいこと〟は、微妙に違う。

 天使の話を鵜呑みすると、本来発揮できる力が微妙に歪んでしまうことも、ないわけじゃない。


(将来敵になる人間に、本気で塩を送る奴はいないだろうからな)


 明日斗は前回の知識を、〈記憶再生〉で思い出せる。

 今回は、天使の助言に頼るつもりはない。


「にしてもよぉ、もっと強いスキルがあるじゃねぇか。安いスキルを数揃えても強くなれねぇぜ?」

「ゴールドがないから仕方ないんだよ」


 アミィに言われるまでもなく、強いスキルは入手したい。だが、欲しいものがどんどん買えるほど、明日斗はゴールドを所持していない。


 世の中お金じゃないというが、それは嘘だ。

 お金がなければ、人としてすら生きられない。それを明日斗は、これまでの人生で身にしみている。


 血がにじむような努力をしても、底辺という名の〝沼〟からは抜け出せないのだ。


「今度こそ、まともにお金を稼がないとな……」


 せっかく良いスタートを切れたのだ。

 この状況に満足しては、また苦しい生活に逆戻りだ。


 意を決して、購入承諾のボタンをタップする。


「これで、残り164ゴールドか」


 ゴールドを増やす方法は、魔物の討伐が基本だ。

 討伐で得られるゴールドは、個体のランクによって変化する。

 Gランクの魔物なら1体おおよそ0,1G。Fランクなら0,4Gといった具合だ。


 先日明日斗は346体のグレイウルフを討伐した。

 これはGランクであるため、1体あたり0,1G。あれだけ倒しても、残念ながら34Gしか増えなかった。


「いち、じゅう、ひゃく、せん…………はぁ」


 自分が欲しいアイテムが購入出来るゴールドまで、一体何体倒せば良いのか。考えると、げんなりする。

 明日斗はため息をつきながら、スキルスクロールを使用。短剣をインベントリから取り出した。




○鉄の短剣

 攻撃力:5

 説明:鉄で出来た、刃渡り三十センチの剣。使いやすいが、切れ味は良くない。丁寧に使わないと簡単に破損する。初心者用にするにも、もうちょっと良い武器があったはずだ。何故これを選んだ。


「なんだこの説明は。喧嘩か?」


 何故選んだと疑問を呈すなら、何故ショップに置いたと尋ねたい。


 明日斗にとって(購入出来る武器の中では)この短剣がベストチョイスだった。

 なぜなら使用する武器によって、天性補正がかかるものがあるからだ。


 剣士系なら長剣や鎧に、盾士系なら盾や全身鎧に、魔術士系なら杖やローブに補正がかかる。

 明日斗はアサシンなので、短剣と軽鎧だ。


E:鉄の短剣

 攻撃力:5+2


 合計して、攻撃力7。同価格帯の長剣と同程度の攻撃力になった。

 これでやっと、ハンターらしくなった。



「そういや、今回はヘンテコなアイテムは買わなかったんだな」

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