第62話 決意の挑発

劣等人の魔剣使い 小説4巻

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〈完全反射(リフレクト・ブラスト)〉は、最強の盾士として君臨した館川正義の、最強の返し技。

 攻撃を受けると、そのダメージを相手に返還する。


 もし館川と戦うことになった場合でも、決して彼を攻撃してはいけない。

 三週間前は、それを実戦出来ていた。

 だが今回は頭に血が上って、館川が割って入るまで、彼の存在に気がつけなかった。


「く……そッ!」


 明日斗は起き上がろうとする。だが、体が全く言うことをきいてくれない。

 全身が砕けたように痛むし、腰の下はいっさい感覚がない。

 鉄骨に当たった時に、背骨が折れたのかもしれない。


 あまりの痛みに、視界全体が真っ赤に染まる。

 ともすれば意識を失いそうだ。


 しかし卯月への怒りが、明日斗の意識を現実につなぎ止める。


「何が、ハンター法だ、館川。お前、これを見ても、まだ自分が、正義の側にあると、思ってんのか……!!」

「……」


 確かに明日斗は、卯月を攻撃しようとした。

 だが、その前に彼は一般人のまことに、寄生樹を植え付けた!


 ハンター法第二条三項は、卯月にこそ適応されてしかるべきものだ。


 その思いは、しかし館川には届かない。

 彼の目はうつろで、どこも見ていない。


(駄目だ。俺の声が聞こえてない)


 明日斗は卯月を睨付ける。


「館川に何をした!?」

「さてぇ、なんのことかわかりませんねぇ」


 とぼけた様子に、明日斗は奥歯を強くかみしめる。

 奴の一挙手一投足が、腹立たしい。


「ああ、そうそう。今日、夜の番組に我がギルドマスターが出演するんですよ。おお、丁度よかった。これをご覧ください」


 卯月が懐からスマホを取り出し、画面をこちらに向けた。


 画面には夕方のワイド番組が映っており、至誠ギルドのマスター氷室青也の姿もあった。


 画面の端には、『結希明日斗容疑者、明日逮捕か?』、『被害は甚大。ハンター法による裁きを』というテロップが表示されている。


「なん、だ。これは……!?」

「人というのは恐ろしいものですねぇ。出所不明の噂話でも、信頼ある人物が発言すれば、それが事実だと信じ込んでしまう。たとえ無実の人間でも、『疑惑』とつけるだけで、犯罪者という印象を簡単に植え付けられる」

「……まさかっ!」


 ハウンドドッグの内部抗争を明日斗の罪に仕立て上げたのは、至誠ギルドだったのだ。

 そのことにやっと気づき、唇を強くかみしめる。


(くそっ、やられた!)


 ゲート内での事件は、証拠がほとんど残らない。

 そのため、ゲート内での事件は、被害者の証言のみで判断されることが多く、えん罪事件が起こりやすい状況だった。


 今回、至誠ギルドはその〝えん罪が起こりやすい状況〟を利用して、明日斗をはめた。


「ハウンドドッグを買収したのか」

「金を握らせるまでもなく、協力してくれましたよぉ。あなた、ずいぶんとハウンドドッグに恨まれてるみたいですねぇ」

「くそっ……!」


 はじめに絡んできたのは、ハウンドドッグだった。

 明日斗はただ、火の粉を払っただけに過ぎない。


 ただそれだけで、まだこちらの足を引っ張ろうとするとは、粘着体質にも程がある。


 スマホの画面の中で、氷室が真面目な顔で語る。


『いくら謝っても、被害者の悲しみとか悔しさって、絶対に消えないと思いますけど、かのハンターは逃げ回ってばかり。最低ですよ、ほんと最低! もしぼくだったら逃げ回らずに、まずはみんなの前で土下座しますね』

「いけしゃあしゃあと……」


 はめた本人が、一体どの口で言っているのか。

 強く噛んだ唇から、血が溢れ出した。


「あなたは大きなミスを犯しましたぁ。それだけの力がありながら、我がギルドの勧誘を断り、どこのギルドの庇護も受けなかった」

「たったそれだけで、新人ハンター一人にここまでやるか」

「当然。権力の維持は、なによりも優先されますからねぇ」


「大手ギルドがこんな姑息な手段を使うなんて、恥ずかしくないのか?」

「いえいえー。これは政治家や官僚、マスメディアが、他人を陥れるために古来から使ってきた、伝統的な手法ですぅ。それを、わたしたちハンターが使ったとて、なにを恥じることがあるんですかぁ?」

「……なるほど、よぉく理解した」


 明日斗は低くつぶやいた。


 至誠ギルドは魔物と戦うことよりも、ハンター同士での権力闘争に力を入れている。

 そんなギルドだったから、十年後のあの日、天に魔物の大群が現われても、一切表に出てこなかったのだ。


 そう思うと、ますます怒りがこみ上げる。

 本来の役割も忘れて権力闘争に明け暮れるなど、言語道断だ。


 明日斗は〈リターン〉を使いこなす前まで、どれだけ頑張っても力が手に入らなかった。

 だからこそ、強いハンターやギルドが、その能力を本来の目的に使用しないことが、なによりも許せなかった。


「……おい、卯月」

「はい?」

「俺はお前らみたいな、〝力ある堕落者〟が大嫌いだ」

「はあ、左様ですかぁ」

「覚えとけ。次に会ったら、その鼻っ柱、全力でへし折ってやる」


 そう言うと、明日斗はインベントリを起動。

 遠くに落ちていた草薙の剣を一度収納してから、手元で取り出す。


「なっ、いつの間に武器を!? 館山くん、無力化してください!」

「おせぇよ」


 逆手に持ち、明日斗は自らの胸めがけて突き刺した。



>>条件:スキル主の死亡を確認

>>スキル:〈リターン〉が発動

>>メモリポイントCにて復帰します


>>条件:スキル主の死亡を確認

>>スキル:〈リターン〉が発動

>>メモリポイントBにて復帰します


………………

…………

……

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