第11話 攻略完了
気がつくと、明日斗はゲートの最奥に到達していた。
この先には何もない。
「はあ……はあ……ボス部屋は、ないのか」
ゲートは大まかに、二種類に分類される。
ボス討伐型と、殲滅型だ。
前者はゲートの最奥にいるボスを倒せば、ゲートの中に敵が残っていようとクリアになる。
後者は、ゲート内部にいる魔物をすべて倒せばクリアだ。
すべての通路を通ったが、ボス部屋は見つからなかった。
どうやらこのゲートは殲滅型だったようだ。
「……ふぅ」
明日斗は体から力を抜いた。
途端に疲労が押し寄せてくる。ここがゲートの中でなければ、地面に大の字に倒れ込んでいただろう。
それに、呼吸もかなり上がっている。
いままで自分の状態に全く気づいていなかった。
それだけ集中していたのだ。
「な、なんて奴だ……」
アミィが信じがたいものを見たような顔をした。
その声は、ひどく掠れている。こんな声を聞いたのは初めてだ。
「お前、命が惜しくないのか!?」
「いいや、惜しいさ」
「じゃあ、あの戦い方はなんなんだよ!? 防具もないのに勢いよく敵に突っ込んだり、攻撃を紙一重で躱したり、あまつさえ、危ない瞬間でさえお前は――笑ってたぞ!!」
「そう、だったのか?」
明日斗は自分の顔に触れた。
戦っている時、自分がどんな顔をしていたのかさっぱりわからない。
もし本当に笑っていたのだとすれば、なるほどアミィにおかしいと言われるのも無理はない。
「死ぬかもしれないってのに、怖くないのか?」
「怖いさ」
「だったらどうしてそんな戦い方が出来る!?」
「……死よりも怖いものを知ってるからだ」
「そ、それはなんだ?」
ごくり。アミィがつばを呑む音が響く。
「――無力」
何も出来ず、何も言えず、誰にも知られず、誰への影響力もない。
そのような人間は、もはや死者に同じ。
前回の明日斗は、生きながらにして死んでいた。
「ハッ、無力がそんなに怖いってか? さっぱりわからん」
「なにか一つでも持ってる奴にはわからないんだよ。〝何も出来ないこと〟が、どれほど恐ろしいのかが……」
(しゃべりすぎたか)
後悔した時だった。
「なるほどな。無力さがコンプレックスのお前は、夢にまで見たハンターにやっと覚醒した。念願の力を手に入れたからこそ、ここまでアホな戦い方をしてるってわけか」
「……よ、よくわかったな」
あちらが勝手に誤った推測をしてくれた。
どう誤魔化そうか考えていた明日斗は、ほっと胸をなで下ろした。
ステータスを開く。
すると、ポップアップが現われていた。
>>新たな偉業を達成しました
・ソロでFランクゲートをクリア
報酬1:1000G獲得
報酬2:ALLステータス+3
・覚醒してから人類最速でEランクに到達
報酬:敏捷+5
「おっ!」
すべてのステータスが3つ上昇すると、(レベル1あたり5ポイント増加なので)レベル3つ分以上のポイントが加算されたことになる。
また、Eランクに到達の偉業も、レベル1つ分アップだ。
偉業だけでステータスポイントがレベル4つ分上昇するとは、とてつもない報酬だ。
ポップアップを閉じて、ステータスをチェックする。
○名前:結希 明日斗(20)
レベル:20→23 天性:アサシン
ランク:F→E SP:0→15
所持G:312→1504
○身体能力
筋力:30→33 体力:22→25 魔力:1→4
精神:1→4 敏捷:40→48 感覚:21→24
○スキル
・初級短剣術Lv3(12%→37%)
・回避Lv3(5%→21%)
・跳躍Lv2→3(97%→7%)
・記憶再生Lv2(10%→21%)
・リターンLv1(31%)
(まさか、最底辺だった自分がEランクになるとは想像もしてなかったな……)
Eランクといえば、ハンターとして独り立ち出来るレベルだ。
ハンターのボリュームゾーンはEランクなので、これでやっとハンターとして人並みになれたといえる。
「……そういえばゲートをクリアするとアイテムが貰えるんだったか」
「お、おう、そうだそうだ。ゲートをクリアするとクリア特典が貰えるんだが、特典アイテムはショップのカート・インベントリに入ってるはずだぜ。――いやあ、これまでオイラの説明がなくてもガンガン進めてくから、てっきり何でも知ってるかと思ってたが、まさかこんな初歩的なことを知らないとはな」
「悪かったな」
「オイラの仕事がなくて焦ったが、いやあ…………安心したぜ」
何気ない一言に、背筋がぞっとした。
反射的に、表情が固まりそうになるのを、ぐっと堪える。
頭の中を、様々な思考が駆け巡る。
(もしかして、いままで俺は警戒されてたのか?)
(安心したっていうのは、最悪のパターンではなかったから、ということか……?)
しかし、アミィが警戒しているものがわからない。
システムの扱い方を知っていることそのものに、問題があるはずがない。なぜならハンターは五年前から存在し、システムの内容や、扱い方についてもネット上で公開されているからだ。
当然ながら、明日斗は報酬アイテムがインベントリに送られてくることを、以前から知っていた。
今回、それを失念していたのは、完全にうっかりミスだ。
(でも、そのミスに助けられたかもしれない)
アミィが何に警戒しているかは、さっぱりわからない。
ただ、これだけは言える。
ハンター能力への理解が深すぎると、警戒される。
(これからは、適度に助言を聞くべきか……)
知っていることを説明されるのは、わりと苦痛だ。
だが、アミィに警戒されるよりはマシだろう。
心に注意を書き留めて、明日斗はカートを確認する。
○看破の魔眼
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