第10話 全力でゲートを駆け抜ける

「おい、何やってんだよ。さっさとゲートに入ろうぜ?」

「…………」

「おいッ!」

「……ん、ああ、そうだな」


 明日斗は慌ててアミィに返答した。

 己のステータスを見て、ぼーっとしてしまった。


〈リターン〉で戻ってくること、はや30回。

 初めは最初のコボルトソルジャーに躓いたが、ここ数回はかなり奥まで進めるようになっていた。


 レベル11になってから一度SPを振って以来、一度もステータスを底上げしてこなかった。

 それは、討伐が簡単になるとスキル熟練度の上がり方が鈍るからだ。


 ハンターとしての能力は、なるべく効率的に成長させたい。

 そのため、ある程度の目標値に達するまでは、SPを振り分けるつもりがなかった。

 だが、そろそろ潮時だ。



○名前:結希 明日斗(20)

 レベル:12→20 天性:アサシン

 ランク:F SP:5→45

 所持G:165→312

○身体能力

 筋力:20 体力:12 魔力:1

 精神:1 敏捷:25 感覚:11

○スキル

 ・初級短剣術Lv1→3(23%→12%)

 ・回避Lv1→3(17%→5%)

 ・跳躍Lv1→2(60%→97%)

 ・記憶再生Lv1→2(7%→10%)

 ・リターンLv1(0%→31%)



 スキルレベルが3を超えたところで、熟練度の上がり方がかなり鈍くなってきた。

 Fランクの魔物が相手だと、スキルレベル3以降は熟練上げの効率が悪くなるようだ。


 このゲートでのレベル・熟練上げはここまでだ。

 次からは、本気で攻略を目指す。

 そうと決めると、明日斗はウインドウを指先で素早くタップした。



○名前:結希 明日斗(20)

 レベル:20 天性:アサシン

 ランク:F SP:45→0

 所持G:312

○身体能力

 筋力:20→30 体力:12→22 魔力:1

 精神:1 敏捷:25→40 感覚:11→21

○スキル

 ・初級短剣術Lv3(12%)

 ・回避Lv3(5%)

 ・跳躍Lv2(97%)

 ・記憶再生Lv2(10%)

 ・リターンLv1(31%)



 ステータスは天性のアサシンらしく、敏捷値を高めに割り振る。

 長時間の戦闘になると満足に動けなくなり死ぬこともあったので、体力もしっかり補完した。


(……よし、これでいける)


 次は学ぶためではなく、乗り越えるために。

 明日斗はゲートに足を踏み入れた。



 ゲートに入ってすぐに、明日斗はステータス上昇の変化を感じ取った。


(すごい。もうコボルトが接近する気配を感じる)


 感覚を上げたことで、より遠くの情報が感じられるようになったのだ。

 短剣を抜き、柄を軽く握る。


 何十回という戦闘の中で得た経験が、体をより合理的に動かした。


 前方から、コボルトの姿が現われた。

 次の瞬間、明日斗は足に力を込め〈跳躍〉。


 たった一呼吸で、三十メートルの距離をゼロにする。

 こちらの接近に気づいたコボルトが、戦闘態勢に入った。

 だが、遅い。


 ――ザクッ!


 素早く背後をとった明日斗が、うなじに深々と短剣を突き刺した。


「……す、すげぇ」


 明日斗の横で、アミィが目を点にしていた。

 これまでとは打って変わって、表情に本心が表れている。


(そういえば、アミィにとってはこれが俺の初戦闘なのか)


 明日斗にとっては、もう何十度も繰り返したコボルト戦だ。

 しかし、〈リターン〉によって記憶が消去されるアミィにとっては、初戦闘だ。

 いきなりこれだけ圧倒的にコボルトを倒せば、少しは違和感をもたれるか。


「次にいくぞ」

「お、おい、待てよ」


 あまり疑いを持つ暇を与えない方が良いだろう。

 明日斗は奥に向かって歩き出した。


 次はコボルトソルジャーが二体。これも難なく退けた。

 これまでの接戦、苦戦はなんだったのかと思わなくもない。

 それだけステータスの恩恵は高いのだ。


(まあ、ここ数回はソルジャーも、時間をかければ倒せるようになってたからな)


 無論、ステータスだけではこうはいかない。

 初めは一体を、やっと道連れに出来た程度だった。

〈リターン〉を繰り返すうちに、ギリギリ2体までなら同時に倒せるようになった。

 スキルレベルが上がったおかげだ。


 ステータスと同様に、スキルレベルがいかに重要かを、身をもって体感する。

 三十回も死んだが、その間の試行錯誤は良い経験になった。


 先に進んで角を曲がると、再びソルジャー二体が現われる。

 これも難なく退ける。


 次の広間でソルジャー三体が待ち構えていた。

 ここが、これまでの最高記録だ。


 体はもう温まっている。

 じわじわと、集中力が高まっていく。

 深呼吸を繰り返して、止める。


 相手がこちらに気づくとほぼ同時に、明日斗は〈跳躍〉で飛び出した。


 ――ザンッ!!


 一体のソルジャーの首を落とす。


「次ッ!!」


 即座に回転。

 襲いかかる一体の攻撃を回避。

 回り込んで首筋へ。


 ――ザクッ!!


 もう一体は――反応出来ずに固まっていた。

 チャンスだ。

 刹那のうちに判断し、短剣を突き出す。

 相手が剣を突き出した。

 即座に首を軽くひねる。

 錆びた切っ先が、頬の紙一重先をすり抜けた。


 ――ズッ。


 こちらの短剣が、胸に深々と突き刺さった。

 コボルトソルジャーが倒れるより早く、明日斗は次の魔物を探して走り出す。


 ――もっと。


 軽く足を動かすだけで、以前の全力疾走よりも早く走れる。

 呼吸にはまだ余裕がある。体力を上げたおかげだ。


 ――もっとたくさん戦いたい。


 魔物と戦っていない時間が、もったいない。

 いま、明日斗は絶好調だった。

 戦闘のギアがマックスまで上がったからだ。


 戦えば戦うほど、新しい手応えがある。

 強くなっていく実感が、明確に感じ取れる。


 ――もっと、もっと、強くなりたい!


 新たな敵を葬って、次の獲物を探しに走る。

 一体、また一体と、ゲートの中にコボルトの死体が増えていく。


 気がつくと、明日斗はゲートの最奥に到達していた。

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