第12話 ハウンドドッグ

○看破の魔眼

 説明:すべてを看破する潜在能力を帯びた魔眼。使用した者に看破の才能を賦与する。ただし、それだけでは魔眼のスキルは使えない。自らの力で能力を引き出す必要がある。


 一見すると、レアリティの高いアイテムに見える。

 しかし、アイコンの見た目は、まんま一対の眼球だ。


 インベントリから出てきた眼球が手に収まる様子が思い浮かび、明日斗はぶるりと背筋を震わせた。


 ――これをどう使えと?


「なあ、看破の魔眼っていうのが手に入ったんだが」

「おっ、魔眼なんて入ってたのか、ラッキーだな! それ、すげぇレアアイテムだぜ!」

「そ、そうなのか。で、これはどうやって使うんだ?」

「魔眼系のアイテムは、インベントリから取り出すだけでいいぜ」

「本当か? 眼球が飛び出してきても、素手でキャッチする勇気はないぞ」

「さっきまでとんでもない戦闘をやってのけた奴が、その程度の勇気がないとか冗談が上手いな」

「それとこれは、別問題なんだよ」

「何が違うってんだよ、まったく。人間ってのはおかしな生き物だな」


 やれやれと言わんばかりに、アミィが肩をすくめた。

 いちいち態度が鼻につく奴だ。


「インベントリから出すと、お前の眼球に魔眼の才能そのものが組み込まれる。眼球がその空間に出てくるわけじゃないから安心しろ」


 一度深呼吸をして、明日斗は看破の魔眼をインベントリからとりだした。


(どうか、目が出てきませんように)


 その瞬間、眼球に僅かに違和感が現われた。

 まるで度のないコンタクトレンズを入れたかのようだ。


 しかしすぐに違和感が消えた。


「…………これで、魔眼は適応されたのか?」

「だと思うぜ」


 インベントリから魔眼の表示は消えている。

 たしかに、魔眼は明日斗の眼球に組み込まれたのだろう。

 だが、変化があまりに乏しい。きちんと使用出来たのかが疑わしくなるほどだ。


「全く見え方が変わらないんだが」

「そりゃそうさ。お前の目に移植されたのは魔眼の潜在能力だからな。疑うんなら、スキル欄を見てみろ」


 言われて、ステータスを表示する。

 するとそこには、『看破の魔眼』の文字が新たに出現していた。



○名前:結希 明日斗(20)

 レベル:23 天性:アサシン

 ランク:E SP:15

 所持G:1504

○身体能力

 筋力:33 体力:25 魔力:4

 精神:4 敏捷:48 感覚:24

○スキル

 ・初級短剣術Lv3(37%)

 ・回避Lv3(21%)

 ・跳躍Lv2→3(7%)

 ・記憶再生Lv2(21%)

 ・看破の魔眼Lv1(0%)NEW

 ・リターンLv1(31%)



「なるほど、魔眼ってスキル扱いなんだな」


 魔眼が消えたわけでないとわかり、ほっと胸をなで下ろす。

 熟練度表記があることから、使い続ければ性能が上がることがわかる。

 しかし――、


「どうやって使えばいいんだ?」

「看破の魔眼なら……たしか、そうだ、武器をじっと見てみろ」


 明日斗は短剣を見る。

 しばらく凝視し続けると、短剣の手前に薄くウインドウが浮かび上がってきた。


○鉄……剣

 攻……

 説明:鉄……、刃渡り……剣。使いやすいが、切れ味…………は良……い。…………


「なるほど、これが看破の効果か」


 看破の魔眼には、いわゆる、〈鑑定〉に近い効果があるようだ。


(これは使えるな)


 確信した明日斗は、魔眼を使いながらゲートの入り口へと向かう。


 その途中で、魔石を回収する。

 ソルジャーの死体は既に消えていた。

 次元の狭間に飲み込まれたのだ。


 ゲートの内部で命を落とすと、次元の狭間に飲み込まれると言われている。

 狭間に飲み込まれると、人間も魔物も関係なく、その存在力と同等の魔石が生まれる。

 この現象を、一部ハンターは〝ゲート内等価交換〟と呼んでいる。


 明日斗も、〈リターン〉がなければ魔石に変化していただろう。

 自分の代わりに生まれた小さな魔石を想像して、少しだけ悲しくなった。


 ソルジャーの魔石は、人差し指の先ほどのものだった。

 こんなものでも、そこそこの価格で売却出来る。


 魔石は現在、様々な分野でエネルギー利用されている。

 人口が極端に減少し、あらゆるバランスが崩れた日本において、魔石はなくてはならないエネルギー物資だった。


 すべてを回収し終え、魔石を数える。

 その数は、45個にものぼった。

 ソロハンターが一度のハントで獲得する魔石としては、かなりの数である。


 明日斗が地上に戻ると、ほどなくしてゲートが閉ざされた。

 中に生命体がいなくなったことで、異次元が安定を失い消滅したのだ。


 ハンター協会に攻略完了の一報を入れ、魔石買取店に向かおうとした、その時だった。

 目の前に二人のハンターが現われた。


「おう、ゲート攻略でお疲れのところわりぃな」

「あのゲート攻略で生き残ったのはお前だけか?」

「……は? 誰だお前たちは」

「おい、うちはギルド黒曜犬(ハウンドドッグ)のメンバーだぜ!? 口には気をつけろ!」


 男がまるでチンピラのような目つきで睨んできた。

 ――いや、実際彼らはチンピラで間違いない。


 前回の知識で、明日斗は彼らのことをよくよく知っている。

 これまでやってきたことも、これからやることも……。


「仲間を失って一人帰ってきたんだろ? かわいそうにな。けど、仲間を見殺しにした奴が、報酬を独り占めなんてしていいのか?」

「死んでいった仲間に申し訳ないと思わないか?」


 何を言っているんだこの二人は。

 勘違いで話が進んでいるが、あまりに馬鹿馬鹿しすぎて勘違いを正す気が湧かない。


「出せ」

「……は?」

「魔石をたくさん持ってんだろ? それを出せ」

「あとクリア報酬も出せ」

「何をわけのわからないことを――」


 ズン!

 突如腹部に衝撃を受け、明日斗は後方に吹き飛んだ。

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