第19話 二度と同じ失敗を繰り返さないために
「あーあ。だからさっさと倒した方がいいぞって言ったじゃねぇか」
「なん……で……」
その短槍は、リザードマンのものだ。
神咲は背後から、リザードマンに襲われたのだ。
「後ろには、リザードマンはいなかったはずなのに……」
「リポップだよ。お前がちんたら戦ってるから、倒したリザードマンがリポップしたんだ」
こぽっ。
神咲の口から、大量の血液が溢れ出した。
その直後、彼女の目から生気が消えた。
「そんな……」
「なんだよ、リポップも知らなかったのか? ダンジョンじゃ、モンスターを倒してもリポップするもんだよ」
いや、知っていた。
倒したら二度と魔物が復活しないゲートとは違って、ダンジョンでは時間が経つと、魔物が再出現(リポップ)することを……。
だが、戦いに夢中になって、完全に頭からその情報が抜けていた。
戦うことに精一杯で、それ以外の事が全く考えられなかった。
視野が、恐ろしく狭窄していた。
「あーあ、お前が無知なせいで、いたいけな少女の命が消えちまったな」
「くそっ!!」
明日斗は自分に、心底失望した。
少しでも戦えるようになったと図に乗った自分に、腹が立った。
前回よりは、まだまともなハンターといえる。
だが、明日斗はまだまだ実戦経験の少ない初心者だ。
一度のチャレンジで万全にクリア出来るほど、強くもない。
それがいま、身にしみた。
怒りが全身を熱くする。
明日斗は短剣を握り、前方に〈跳躍〉。
瞬く間にリザードマンとの距離をゼロにした。
明日斗の接近に、リザードマンが慌てて短槍を引き抜こうとした。
だが、遅い。
懐に潜り込んだ明日斗は、短剣を突き出した。
角度、速度、すべてが完璧な状態で、その切っ先が胸部に突き刺さった。
「――――ッ!!」
リザードマンの断末魔が響く。
もうじき、こいつは死ぬだろう。
だが、明日斗は手を休めない。
短剣を引き抜き、脇へ。
――ザクッ!!
適切な角度で入った刃が、リザードマンの肩関節を切断。
返す刀で逆の肩も切断。
さらに回転、回し蹴り。
リザードマンを、神咲から遠ざける。
短槍の支えがなくなり、力なく崩れ落ちる神咲を、明日斗は優しく抱き支えた。
急速に冷たくなる体温に、明日斗はぐっと奥歯をかみしめる。
「……ごめん」
血に濡れることも厭わず、ぎゅっと小さな体を抱きしめる。
将来、氷血姫と呼ばれるようになるとは思えない、華奢な体だ。
無力な自分の無謀な行動のせいで、日本に必要不可欠なハンターを失ってしまった。
悔恨を、深く胸に刻み込む。
そっと、体を地面に寝かせて、手のひらで開いたまぶたを閉じてあげた。
程なくして、神咲の姿が魔石に変わった。
それは小指の先ほどもない、小さな魔石だった。
魔石を拾い上げ、手のひらでぐっと握りしめる。
(これが、神咲の重み……)
存在の対価。
将来トップハンターになる人材との交換にしては、その魔石はあまりに軽すぎた。
「……」
「残念だったな。好きになった子をこんな形で失うとは。でも、ハンターってのは命をかける仕事だろ。こういうことも日常茶飯事だって――」
「黙れ」
「――ッ!?」
口から漏れた言葉は、自分でもぞっとするほどダンジョンの中に冷たく響いた。
魔石を、あたかも人を埋葬するかのように、優しい手つきで地面に置いた。
そして明日斗は立ち上がる。
「こりゃ、ダンジョン攻略は中止だな」
「いや、丁度いい機会だ」
「……はっ? 思い人が死んだのを、丁度いい機会だって言ったのか。お前、案外血も涙もない奴なんだな」
「だから、思い人じゃないと何度言えば――」
「もしかして、まだ狩りを続けるのか?」
「ああ。……どんなに魔物を倒しても、神咲はレベルが上がらないからな」
「あん? なにスカした顔して、当たり前のこと言ってんだよ」
ここで投げ出せば、現実は変えられず、神咲も失われたまま、時間が進んでいく。
スキル〈リターン〉を使えば、最低でも神咲は生き返り、振り出しに戻る。
だが、それではまた、同じ失敗を繰り返すだけだ。
二度と同じ失敗を繰り返さないために、明日斗は強くならなければならない。
――絶対に、強くなってやる!
○名前:結希 明日斗(23)
レベル:24→25 天性:アサシン
ランク:E SP:0→5
所持G:5→7
○身体能力
筋力:33 体力:25 魔力:4
精神:4 敏捷:60 感覚:32
○スキル
・初級短剣術Lv3(45%→89%)
・回避Lv3(30%→64%)
・跳躍Lv3(13%→31%)
・記憶再生Lv2(35%→42%)
・看破の魔眼Lv1(51%→60%)
・リターンLv1(31%)
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