第56話 全力でゲートへ急げ!

 システムを消して、明日斗はゆったりとしたペースで走り出した。

 旅のリミットは三週間後の午後まで。夕刻になればゲートが解放されている。

 出来れば、午前中には万全の状態で、ゲート出現地点で待機していたい。


 そのためには、前回と同じペースでは駄目だ。


「アミィ、少し急ぐが、付いてこれるか?」

「あたぼうよ。お前はアミィ様をなんだと思ってるんだ? お前が嫌だって言っても、オイラは地の果てまで付いていくぜ! 最高だろ?」

「……最悪だ。怖気が走る」

「ひでぇっ!」

「ともかく、お前が付いてこられることはわかった。じゃあ、全力で行くぞ」


 次の瞬間、明日斗は全力で大地を後ろへ蹴り出した。

 ゴウッ! と音を立てて空気を破る。


 体が恐ろしく軽い。

 しかし、まだ限界じゃない。

 もっと速度を上げられる。


 これまでにないスピードに、ともすれば足がもつれそうになる。

 体を必死に安定させて、トップスピードのままひた走る。


「ちょおおおおお!! お前どんだけ早いんだよおおおお!!」


 後ろでは、顔をくしゃくしゃにしたアミィが必死に明日斗に付いてきている。

 引き離すつもりで走っているが、離れていく気配がない。

 犬の散歩紐のように、一定以上離れると、それ以上離れないよう強制力が働くのだ。


「大丈夫そうだな」

「どこが、大丈夫、そうに、見える、んだよ!!」


 しばらく走ると、体が今のステータスに慣れてきた。

 この様子だと、全力で走っても転ぶことはないはずだ。


「もっと速度を上げるぞ」

「やめろおおおお!! ンアァァァァァ!!」


 アミィを引きずるようにして、明日斗はぐんぐん西へと走っていくのだった。



          ○



 再び福岡の吉武高木遺跡に戻ってきたのは、死に戻ってから二週間後のことだった。

 前に比べて一週間も短縮出来たのは、ステータスが大幅に上昇したこと。また、外地での戦闘を最適化出来たことが理由だ。


「はあ、はあ……ふぅ……疲れた」

「そりゃあんだけ走ったら疲れるだろ」


 アミィが呆れ果てたようにため息を吐いた。

 しかしすぐに真顔になり、明日斗に顔を近づけた。


「で、そろそろ狙いを教えろよ」

「……なんの話だ?」

「しらばっくれるんじゃねぇよ。魔物をほとんど無視して、野良ゲートも無視してただ走り続けてたんだ。なんか目的があってここに来たことくらい、阿呆でもわかる」


 図星を突かれ、明日斗は答えに窮した。


 アミィの言う通り、明日斗はここに来るまでほとんどの戦闘を回避した。

 日が暮れても移動を行い、襲いかかる魔物から逃げ続けた。


 唯一積極的に戦ったのは、あの白い獣だけだ。


 ほとんどの一般モンスターは、大量に倒してももうほとんどレベルが上がらなくなった。

 Cランクまでの格下ばかりだからだ。


 しかしあの白い獣は違う。

 ボスクラス、かつBランクのモンスターは経験値が豊富だ。

 さらに、討伐するとレベル6つ分も上昇する偉業が取得出来る。

 見逃す選択肢などない。


「もう一度聞く。何が狙いだ?」

「前に言ったよな。俺は出現するゲートがわかるって」

「ああ、そういうスキルがあるって話をしてたな。……まさかっ」

「その通り。ここに、ゲートが出現する」

「なるほど、だからか。……あ、いや待てよ。ゲートを攻略するだけなら、他でも良かったじゃねぇか。なんでここなんだよ?」


 アミィが当然の疑問を口にした。

 それに対する答えは、既に用意していた。


「ゲートのランクだよ」

「ランク?」

「将来出現するゲートに加えて、ランクがわかるんだよ」

「そんなことまでわかるスキルなのか、なるほどなあ」


 不誠実な明日斗の発言に、アミィが疑うそぶりも見せずに頷いた。

 嘘を吐いていないからだ。


「で、ここに出現するゲートはどのランクなんだ?」

「知らん」

「なんでだよ!? お前、ランクがわかるって言ったじゃねぇか。嘘吐きやがったのか!?」

「いいや。俺はランクがわかるとは言ったが、わからないものがないとは言ってない」

「いけしゃあしゃあと……。だが、なるほどな。ここのゲートを選んだ理由はそれか」

「ああ。ランクがわからないからだ」


 もちろんこれも、嘘ではない。

 明日斗は金色に光るゲートについて、中からユニークアイテムが出たこと以外、前情報がないのは本当だ。


「きっと特別なゲートじゃないかと思ってな」

「そうかもしれねぇな」


 これで納得しただろうか?

 ちらり、表情を盗み見る。


 アミィは遺跡を眺めながら「なんもねぇ、つまんねぇ場所だな」とつぶやいている。

 どうやら、明日斗の能力に疑義をもった様子はない。


 内心ほっと胸をなで下ろし、明日斗は荷物を降ろすのだった。




 遺跡で野宿すること、一週間。

 ただ待つのも暇なので、周辺にいる魔物を倒し、野良ゲートを攻略した。


 魔物やゲートは、Cランク以下でまるでレベルは上がらなかったが、多少の熟練上げの相手にはなった。


 明日斗はゲート出現の日の朝、万全の状態で目を覚ました。

 ステータスをチェックして、不備がないか確かめる。



○名前:結希 明日斗(23)

 レベル:54→55 天性:アサシン

 ランク:B SP:0→5

 所持G:54234

○身体能力

 筋力:85→90 体力:→8085 魔力:19→24

 精神:19→24 敏捷:155→160 感覚:85→90

○スキル

 ・中級短剣術Lv3→Lv4(91%→5%)

 ・致命の一撃Lv4(68%→83%)

 ・回避Lv5(87%→98%)

 ・跳躍Lv5(71%→84%)

 ・瞬間記憶Lv1(19%→41%)

 ・可死の魔眼Lv3(68%→92%)

 ・ライフスティールLv2(11%→60%)

 ・リターンLv2(0.5%→1%)



(メモリポイントはどうするべきか……)

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