第57話 リターンの嵐

 これまで不測の事態が発生しても、何をやっても手遅れになる〝詰み状態〟に陥らないよう、メモリポイントを外地出立地点から動かさなかった。


 だがようやっと、ゴールが見えてきた。

 今のところ、問題になる要素は一つもない。


(そろそろ更新してもいいか)


 日が昇ってから、ゲート出現地点で待つこと数時間。

 ついにその時が訪れた。


 バチバチバチ。

 目の前で光が弾ける。

 空気が焦げるような臭いとともに、金色のゲートが出現した。


「おおおっ、ほんとにゲートが出やがった。しかも、なんだこの色は!? 超レアゲートじゃねぇか!!」

「そうみたいだな」


 アミィの言葉に返しながら、明日斗はメモリポイントを書き換える。


>>メモリポイントを更新しました。

・ポイントA 2030年4月5日12:00

・ポイントB 2030年5月2日11:12 NEW

・ポイントC 2030年4月11日10:36


 これで、死んでも三週間前からやり直す手間が省ける。


 ポイントがきちんと更新されたのを確認して、明日斗は顔を上げた。

 金色のゲートは、ひと一人が入るのがやっとのサイズだ。


「小さいな。ランクはそこまで高くないのか?」

「いや、レアゲートは、サイズだけじゃランクはわからねぇんだよ」

「そうなのか」


 前にここに入った時、奥からハンターの声が聞こえた。

 てっきり一人だと思っていたが、複数のパーティだったか。あるいはソロでも攻略出来る難易度だったか。


「一人でも攻略……出来るよな?」

「さあな。そればっかりはやってみなけりゃわからねぇ」

「それもそうだな」


 初めは誰しも手探りだ。


(大丈夫。攻略出来る)


 明日斗は頬を張り、気合いを入れてからゲートに足を踏み入れるのだった。



>>条件:スキル主の死亡を確認

>>スキル:〈リターン〉が発動

>>メモリポイントBにて復帰します




「ハァッ!?」


 死に戻って開口一番、明日斗の口から素っ頓狂な声が飛び出した。


「なっ、なんだよ、どうした!?」

「……あ、いや、悪い。気のせいだった」

「ん、なんだ、気のせいかよ、驚かせやがって」


 うっかり声を上げてしまったことを、深く反省する。

 今回はなんとか誤魔化せたからいいものの、アミィに疑われる言動は慎むべきだ。


(にしたって、入った瞬間死に戻りとか、わけがわからん!)


〈瞬間記憶〉で何度も思い出すが、何故自分が死んだのかがわからない。

 最悪な死に方だ。

 有効な対策が立てられない。


(たぶん、何らかの罠が発動したんだろうな……)

(まさか条件に合わないハンターが入ると即死する罠……なわけないか)


 そのようなものを聞いたことは一度もない。

 即死した人物が『死んじゃったよ』なんて情報提供出来るはずがないので、聞いたことがなくて当然だが……。


 そもそも以前、別のハンターにアイテムを先取りされた時に、明日斗は一度このゲートに踏み入っている。

 その時は、なんの罠も発動しなかった。

 このことから、ハンターの条件によって発動する即死罠でないのは確かである。


(じゃあ、何の罠が発動したんだ?)


〈瞬間記憶〉で罠の種類を引っ張り出す。

 落とし穴、巨大落石、毒ガス、底なし沼、蟻地獄、痺れ罠、落雷、弓矢……。


(この中で最も可能性が高いのは、弓矢か)


 明日斗は風壁の指輪に魔力を注ぐ。

 弓使いとの戦闘がしばらく無かったため、魔力を充填するのをサボっていた。

 ――油断していた。


(もう二度と忘れないようにしないとな)


 どれだけレアなアイテムも、持っているだけではただのガラクタ。

 宝の持ち腐れとはまさにこのことだ。


(今度こそ)


 意気込み、ゲートに足を踏み入れた。

 次の瞬間、飛来する銀色の物体を目で捉えた。


 数え切れないほどの矢が明日斗に降り注いだ。

 そのすべてを、風壁の指輪がガードする。


「うっ……」


 指輪に魔力が吸い取られたことで、激しい倦怠感が襲う。

 まさかここまで殺意たっぷりな罠だとは思ってもみなかった。


「ひでぇ数の矢だなおい。何十本あるんだよ」

「なんて最低な罠だ……」


 もし魔力が少しでも低ければ、矢を退けるための魔力が足りずに体に突き刺さっていたに違いない。

 明日斗が生き残れたのは、偉業達成で魔力が上昇していたおかげだ。


 報酬を与えてくれたシステムに感謝し、明日斗は慎重に進んでいく。


 しかし、罠は入り口の矢だけでは終わらなかった。

 角を曲がった先の通路では、後ろから巨大な石が転がってきた。


>>条件:スキル主の死亡を確認

>>スキル:〈リターン〉が発動

>>メモリポイントBにて復帰します


 その次の通路は、すべての床が落とし穴だった。

 落下した底で明日斗を待っていたのは、鋭い鉄の錐だった。


>>スキル:〈リターン〉が発動

>>メモリポイントBにて復帰します


 さらにその先では天井が落下し、その次は壁から炎が噴射してきた。


>>メモリポイントBにて復帰します

>>メモリポイントBにて復帰します

>>メモリポイントBにて復帰します

………………

…………

……



「なんだこのゲートは、殺意高すぎだろ!!」

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