第41話 三大ギルドのギルドマスター

お知らせ


本作『底辺ハンター』の書籍化が決定いたしました!

さらに、コミカライズ企画も進行中!


これもひとえに、皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!



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 とにかく休息を取りたい明日斗は、『今すぐ入れるハンター専用マンション』という条件に合致した賃貸物件で即断即決する。

 間取りなんて興味はないし、マンションのスペックだってさっぱりだ。


 とにかく落ち着いて眠れる部屋があればそれで良かった。

 しかし、


「五十万円!?」

「はい」

「五万円じゃなくて?」

「はい。現在空いているお部屋がそこしかなくて……」

「一ヶ月の部屋代が、ごじゅうまんえん……正気か?」


 普段使っているネットカフェでの宿泊代250日分が、たった一ヶ月で消費される。

 それを思うと、頭がくらくらする。


「本当にそこしかないんですか?」

「ハンター物件は大人気でして……すみません」

「もうすぐ退去しそうな物件はありませんか?」

「まだ四月ですし、しばらくは空く予定はないかと」

「ごじゅう、まんえん……」


 毎月徴集されるだろう家賃に、明日斗は愕然とする。

 だが、泊まれないよりは、ずっといい。


 明日斗のような根無し草では賃貸契約は難しいのだが、さすがはCランクハンター。ライセンスをかざしただけで、あっさり契約が完了した。


 そうして、初めて自分で借りたマンションに向かったのだが――。


「……まじか」


 港区にあるマンションの下で、明日斗は口を開けて建物を眺めていた。

 エントランスは総ガラス張り。周りには目隠しに生け垣が植えられている。


 駐車場にはベンツやアウディ、BWMの車が並んでいる。

 無論、ここは高級車展示場ではない。

 ここに住んでいるハンターの持ち物なのだ。


 アウトブレイク前と違い、現在の車のコストパフォーマンスは非常に悪い。

 壁の中しか運転出来ないし、ガソリンが恐ろしく値上がりしたからだ。


 それでも車を(それも高級車を)所有しているところに、住人たちの資金力の凄まじさが見て取れる。


 このマンションの中に、明日斗が契約した部屋がある。

 背中に冷や汗が浮かぶ。

 まさか、ここまで立派な高層マンションだとは思ってもみなかった。


「値段を考えるとこれが妥当……なのか?」


 よくわからない。

 そもそも五十万円でどれくらいの部屋が借りられるかなんて、考えたこともなかった。


「守銭奴が、またすげぇとこ借りたなおい」

「いや、さすがにこんなマンションだとは思わなかった」


 ハンター証をかざして、セキュリティゲートを通過。さらにカードキーでエントランスの扉を開いた。


 エレベーターに乗り、二十四階に向かう。

 その間、明日斗は何度も契約書を確認する。


「……本当にここでいいんだろうな?」


 こんなに良いマンションだと、逆に五十万円で足りるのか不安になる。

 まさか半月分の値段だった、なんてオチじゃないかハラハラするも、契約書のどこにも、そのような文言は書かれていなかった。


 二十四階に到着した明日斗は、自分の部屋番号が書かれた扉の前でしばし佇む。


「……おい、さっさと入れよ」

「お、おう」

「びびってんじゃねぇよ」

「びび、びびってないから!」

「いいから入れ入れ」


 アミィに煽られながら、玄関の扉を開いた。

 玄関に入るとまず、奥に空が見えた。

 光をたくさん取り込む大きな窓が、玄関からもはっきり見える。


「ネカフェと全然違うな」

「そらそうだろ……」

「靴箱がある!」


 しかもかなり大きい。

 ハムスターなら五十匹は飼育出来るサイズだ。

 靴が一足しかない明日斗には、完全無用の長物である。


 靴を脱いで、フローリングに足を乗せた。

 使い古した靴下で歩くのが、申し訳なくなってくるほど綺麗なフローリングだ。


 これが自分の部屋だという実感が、まるでない。

 ひとまず、リビング・ダイニングに向かう。


 その時だった。

 明日斗は人の気配があることに気がついた。


「誰だッ!」


 即時、短剣を抜いて臨戦態勢となる。


 何者かにここまで接近するまで気づけなかったのは、この部屋を見て完全に思考が追いつかなかったせいだ。


 気が緩みすぎていた。

 短く反省し、不審者を睨付けた。


 不審者は木で出来たスツールに腰を下ろし、おもむろに両手を挙げた。


 その顔を見て、明日斗の心臓がばくん、と大きく跳ねた。


「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんだ」

「あ……あなたは……!」


 全身、仕立ての良いスーツを着て、髪を短く切りそろえたその少年の顔を、明日斗は何度となく、テレビや雑誌で見たことがあった。


「もしかして、氷室青也さんですか!?」

「はい。初めまして、結希明日斗くん」


 氷室青也は、三大ギルドの一つ、至誠ギルドを率いるギルドマスターだ。

 現在の日本において、この少年の名を知らぬ者はいない。

 最も有名なハンターの一人である。


 第一次アウトブレイク時、氷室は十一才という若さでハンターとして覚醒した。

 そのおかげか、いち早く能力に順応し、一気にスターダムを駆け上がった。


 現在十六才となった彼はハンター活動をする傍ら、夕方ワイド番組のコメンテーターとしても活躍している。武力と知力を備え、おまけに顔も良い。

 テレビに出るだけで、SNSで名前がトレンド入りするほどのファンも多い。


 有名ハンターの突然の出現に、明日斗は慌てて短剣をしまい、居住まいを正す。


「あ、あの、何故氷室さんがここに? あっ、もしかして氷室さんの部屋でしたか!? たいへん失礼いたしました!!」

「いやいや、ここは君の部屋だよ。ぼくが勝手に入らせてもらったんだ」

「えっ?」

「実はこのマンション、知り合いの物件でね。結希くんに直接会いたくて、鍵を開けてもらったんだよ」

「そう、だったんですね」


〝直接会いたくて〟

 前回の明日斗では、直接話すことさえ出来なかった相手から、まさかこんなことを言われるとは思ってもみなかった。


 三大ギルドのマスターの言葉に、明日斗は胸が震えた。


「驚かせたお詫びといってはなんだけど、入居祝いに、この椅子をプレゼントするよ」

「そんな、申し訳ない」

「いいよいいよ。椅子は大事だからね。それに、ぼくが用意している椅子はこれだけじゃないんだ」


 氷室が椅子から立ち上がり、明日斗に向けて椅子を押し出した。


「至誠ギルドは、結希明日斗くんに――」







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余談ですが、明日斗君が契約した物件は、リアルに存在します。


タワマンって、すごいですね。

お米を炊いても芯が残りそう……(ぁ

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