第34話 可死の正しい使い道

「お、お前……一体なにをやりやがったんだ!?」


 明日斗が短剣を振るった直後、アミィが血相を変えた。


「なんで……なんで人間ごときが、上位存在を殺せるんだ!!」


 オオカミの入れ墨が入った金満との戦闘中、明日斗は宙に浮かぶ光のラインを短剣で切り裂いた。


 手応えはまるでなかった。

 だがアミィの反応から、実験の成功を知った。


(やはり、〈可死の魔眼〉は切り札になり得るな)


 明日斗が切り裂いたのは、金満についた天使の命脈だ。

 本来天使は、十年後の大侵攻の日まで人間の手では触れられない。


 だが〈可死の魔眼〉があれば、人間でも天使を殺せるのではないか?


○可死の魔眼

 説明:生死の流れを看破するスキル。相手の命脈を看破することで、どのような〝物〟をも断てるようになる。


『どのような〝物〟をも断てる』という文言から、明日斗はそう仮定した。


 ただし、実験は慎重に行わなければならない。

 なぜならアミィの可死光を斬り、万一実験に成功した場合、天使とともにハンターの力を失う可能性があるからだ。

 そのため、明日斗はスキルの実験を保留していた。


 今回、ハウンドドッグが絡んできたことで、明日斗は彼らを実験対象にすることにした。

 彼らであれば、力を奪うことに何の痛痒も感じないからだ。


「シ、システムが、開かねぇ……!? お、おいガープ、どうなっ……えっ?」


 男が慌てたように空中を見上げて、目を丸くした。

 ガープという天使が消えたことに、やっと気づいたようだ。


(なるほど、天使が消えるとシステムも使えなくなるのか)


 男が立ち上がろうとして、そのまま尻餅をついた。

 ナックルが重たすぎて、腕が持ち上がらなかったのだ。


(ハンターとしての能力も消えたのか)


 どうやら天使を殺すと、ハンターとしての能力がすべて消滅するようだ。

 この結果を見て、明日斗の背中に冷や汗が浮かぶ。


(アミィで試さなくてよかった……)


 もし試していれば、今頃明日斗はハンターの能力を失い、〈リターン〉も使えなくなって、完全に詰み状態に陥っていただろう。

 危ないところだった。


「お、おい。テメェ、金満さんになにしやがった!?」

「殺せ、今すぐ殺せ!!」


 力を失った男――金満の部下がいきり立つ。

 だが、いずれも金満ほどの実力はないようだ。

 動きは緩慢で、ぎこちない。


 とはいえ、黙って見ているわけにはいかない。

 こちらは防具を一切装備していないため、格下の攻撃でも当たれば致命傷になり得る。


 明日斗は感覚的に、強そうなハンターに接近。

 攻撃を躱しながら、それぞれの頭上に浮かぶ光の筋を短剣でなぞっていく。


「撃て、撃てぇぇぇ!!」


 誰かの号令とともに、明日斗に向けて矢が放たれた。

 スキルを使ったのか、弓を持っている人数よりも遙かに大量の矢が飛来する。


 今すぐ逃げなければ、あっという間に蜂の巣だ。

 だが、明日斗は矢を待った。


 ――風壁発動。


 眼前で、矢が突如方向転換。

 明日斗を避けるように矢が通り過ぎていく。


「あ、あいつ、矢避けの魔道具を持ってるぞ!」

「だったらオレが魔術で灰にしてやる。魔術は矢避けじゃ防げねぇからな」

「――確かにそうだな」

「「――ッ!?」」


 全力で魔術士に接近し、頭上のラインを一刀両断する。

 攻撃に怯えた魔術士が、両手で頭を抑えながら腰を落とした。

 だがすぐに我を取り戻したか、杖を掲げ――、


「ふぁ、ファイアボール!!」


 魔術名を叫ぶも、魔術は発動しなかった。


「え、は……? 一体、どうなってんだ……!?」


 天使を斬られた魔術士は、もはやただの人。

 魔術が発動出来る道理はない。


 そこから明日斗は、自分にとって危険なハンターの天使を切り裂いていった。

 全部で十以上天使を倒したところで、戦場が混乱の坩堝と化した。


「オレのガープ、どこにいったんだよ」

「なんでシステムが表示されねぇんだ!?」

「魔術が……たくさんお金を払ったのに、魔術が使えない……!!」

「一体どうなってんだ、武器が持ち上がらない!!」


 本来在るべき能力が突如失われたのだ。

 戦闘を忘れて混乱するのも無理もない。


 ハウンドドッグのメンバー全員から、戦意が消失した。

 これで、貴重な時間を浪費させられることもなくなった。


 このまま病院に向かっても良かったが、明日斗は念のため、足止めを行うことにした。

 壁に埋まった新城の下に歩み寄る。


 明日斗の姿を見た新城が、慌てて腰の剣に手を当てた。


「く、来るな! 来るなら、き……斬る!」

「無駄な抵抗はやめろ。それよりいいことを教えてやる」


 明日斗は『あちらを見ろ』と顎を軽くあげる。

 そこには、天使を探し続ける金満がいた。


「あいつ、ハンターの力を完全に失ったぞ」

「馬鹿な……」

「その証拠に、自慢のナックルが持ち上がってない。あれは、ランクが高くないと装備出来ない武器だ。違うか?」

「あ、ああ」

「つまり奴はもう、ハンターじゃない」

「そんな……」

「後は好きにしろ」


 それだけを告げて、明日斗はゲートの出口に向かい歩き出した。

 少しして、新城の声が響いた。


「いつもクソみてぇに殴ってくれたな。俺が大切にしてたアイテム全部も根こそぎ奪いやがって、覚悟しやがれゲス野郎!」

「ガフッ――!!」

「死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇぇぇ!!!!」

「や、やめ――」


 振り返ると、新城が金満の体に乗って両手を振り下ろしていた。

 金満の顔が歪み、すぐに真っ赤に染まった。


 新城は明日斗への攻撃よりも、金満への復讐を選んだのだ。


 力で得た立場は、力を失った瞬間にあっさり反転する。

 特にハウンドドッグは、力と恐怖で下の者を抑えつけていただけに、その反発は尋常なものではない。


(駄目男(ハウンドドッグ)にぴったりな最期だったな)


 無法者の末路を背に、明日斗は足早にゲートを出て行った。




>>新たな偉業を達成しました

・上位存在を殺害する

 報酬1:100000G

 報酬2:ALLステータス+10

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