第36話 後日談

 Bランクのゲートを出てからというもの、アミィが妙に怯えていた。

 明日斗としては、無駄口を叩かないのでありがたいが、前回も含めて十年以上の付き合いだ。ペラペラしゃべるアミィの口が一向に開かないとなると、それはそれで調子が狂う。


「おい、いい加減に何か言えよ」

「な、何か言って機嫌を損ねたら、オイラを殺すだろ!?」

「殺さないよ」

「殺し屋はみんなそう言うんだ!」

「誰が殺し屋だ……」


 こちらから攻撃出来るとなった瞬間、態度がでかかったアミィがインパラのように怯えるとは、肝っ玉が小さすぎて涙が出る。


「あんなに天族を殺した奴が、オイラを殺さないはずがねぇ」

「お前を殺したら、ハンターの能力が消えるだろ」

「むぅ?」

「俺はこの力を失うわけにはいかないから、お前は殺さない」

「……そうかそうか。なあんだ、身構えて損したぜ!」

「いや身構えるってレベルじゃなかったぞ」

「しかしまさか、人間が天族を殺せるとは思ってもみなかったな。一体どんなスキルなんだ?」

「…………」

「まっ、答えたところで、あの攻撃にゃ防御も回避も意味ねぇけどな」

「そうなのか」


 てっきり、スキルがバレれば何か対策が立てられると思っていたが、どうやら違うらしい。

 単純に嘘をついている、というわけでもないはずだ。

 なぜなら天使は〝嘘は〟つかないからだ。


「スキルってのは上位システムによって発現するが、その中身は千差万別で、オイラたちでもすべてを理解してるわけじゃねぇんだよ」

「む、そうなのか?」

「人間は物理法則をすべて理解してるのか?」

「……いや、わからないことだらけだな」

「だろ? オイラたちにとってのシステムも同じだ。特に下位世界でシステムが使われると、よりイレギュラーが発生しやすくなるんだ。オイラたちが知らないスキルが発生しても不思議じゃねぇ」

「そうなのか」


(しかし、やけに素直にしゃべるな)


『天族』やスキルシステムへの理解度、上位世界や下位世界などの単語は、これまでアミィの口から一度も耳にしたことがない。

 それは前回も含めて、ネットにも掲載されたことがないものだ。


 良好な関係が築けている間柄ならまだしも、同族殺しの明日斗にわざわざ新情報を提供する理由がわからない。


(一体なにを考えているんだ?)


「それはそうと、お前、気をつけろよ」

「何がだ?」

「あれだけ派手に天族を殺したんだ。情報が広まれば、お前、天使が操るハンターに狙われるぜ?」

「…………」


 アミィの言葉で、明日斗の心が引き締まった。

 たしかに、天族殺しの情報がゲートの中だけで完結するはずがない。


 天使には独自の情報網がある。

 天使殺しの情報は、既に多くの天使に共有されていると思っておいた方が良いだろう。


 もし天使の言葉を信じて疑わないハンターが現われたら、非常に面倒なことになる。


『自分が権利を所有するゲートに、ハウンドドッグが侵入して襲いかかってきた。明日斗はこれを無力化しながら切り抜けた』


 事実はこうだが、情報を意図的に偏向させると――。


『一方的にハンターの力を奪い、同士討ちをけしかけた、悪辣なハンター』


 天使は嘘は言わない。

 だが、本当のことを言っているとも限らない。


 詳しい情報がなく、判断のすべてを天使に任せきったハンターは、間違いなく明日斗討伐に乗り出すだろう。


「面倒なことになったな……」


 神咲の一件が終わって、少し休めると思っていたのだが、どうやらそんな暇はなさそうだ。


 第一次アウトブレイク時に覚醒したハンターの中には、既にSランクに到達している者もいる。

 そんなハンターが現われれば、明日斗は手も足も出ずに殺される。

 たとえ〈リターン〉を何度使っても、成長出来なければ未来がない――詰んでしまう。


〈リターン〉の袋小路から抜け出す方法は一つだけ。


「もっと強くならないと」


 どのような状況でも切り抜けられる力を、出来るだけ早く手に入れる。

 そのためにも、明日斗は〈記憶再生〉を使い、新たなゲートに向かうのだった。





○名前:結希 明日斗(23)

 レベル:43→45 天性:アサシン

 ランク:C SP:15→25

 所持G:578→100198

○身体能力

 筋力:65→75 体力:50→60 魔力:9→19

 精神:9→19 敏捷:105→115 感覚:55→65

○スキル

 ・中級短剣術Lv3(6%)

 ・致命の一撃Lv2(64%)

 ・回避Lv5(13%)

 ・跳躍Lv4(94%)

 ・記憶再生Lv3(70%)

 ・可死の魔眼Lv2(78%)

 ・リターンLv2(0%)






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




以上で1章終了です。


ここまで読んで、少しでも「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

『★★★』と評価して頂けますと、嬉しいです。




 更新について。

 2章は書き終えているのですが、推敲が間に合っておりません。

 次回更新は17日金曜日を予定しております。それ以降は週1更新になると思います。どうぞご了承くださいませ。

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