お母さんは、すごいな

「みっくん、そんなんせんでええの」


「許されへん。殺るねん、殺ったるねん」


俺は、包丁を持って佐々木を探して街を歩いてる。


「みっくん、やめてって言うてるやろ?」


「殺る、俺が殺る」


「そんなみっくんなんか大嫌いや。もう、しらん」


行かんといて、こっちゃん。


行かんといて、こっちゃん。



「こっちゃーーーん。」


はっ!?ゴンッ……いたっ


「イタッ。僕は、こっちゃんじゃないよ。」


そう言って心春が、頭を撫でてる。


白いセーターの端で、俺の口の血を拭った。


「秋帆は?」


「コンビニに行ったよ。」


「そっか。」


「許したよ。」


「えっ?」


「美月のお母さんってすごいね。タクシーの中で、何があったのか灰原に聞いた。」


「そうか、知ったんか」


「お母さんは、許しますって言ってたよ。憎しみからは、何も生まれへんって…。こっちゃんは、笑っててって言ったから私は許しますって。でも、そのかわり私の家族の人生には二度と関わらんといて下さいって。みっくんの人生には、とくにって。言ってたよ」


そう言って、心春が泣いてる。


「僕が、殺ったのに」


「えっ?」


そう言って心春は、俺の手を握ってる。


「自分を汚さんでも、僕が殺ってあげたよ。美月の為に…」


こっちゃんと重なった。


もう、失いたくない。


俺は、心春を抱き締めた。


「そんなんせんでええよ。必要ないよ。大丈夫やから」


おかんは、心春が居たから許したんやと思う。


ガチャ


「秋帆が、帰ってきた。」


心春が、俺から離れた。


「懐中電灯、電気の傘ついてへんから」


「お帰り。」


「ああ、起きたんか?」


「うん。おかん知らん?」


「灰原についてるよ」


「ホンマか、俺のせいやな」


俺は、目を伏せた。


「帰ったら、ちゃんとお母さんと話ししなよ。」


心春が笑って言ってきた。


「飲まへん?ビール買うてきた。」


「飲もうかな」


「その前に、手当てやな」


俺は、秋帆に手を差し出した。


「あんま、無茶すんなや。」


「イッ…。 俺、おかんみたいに許されへん」


「それで、ええやん。」


そう言いながら、包帯を巻いてる。


「アカンやろ、おうたら殺りたなったらどうするん?」


「そん時は、手伝ったるわ」


「えっ?」


「殺りたいんやろ?だったら、しゃーないやん。我慢しても」


「それも、そうだね。」


「いやいや、秋帆も心春もとめる方やないんか?」


「とめる必要ある?」


「ないない、だって我慢するだけしんどいやん」


「なんやそれ、さすがにおかしいやろ」


そう言った俺に、秋帆がビールを渡してきた。


「そういうの我慢してたら、ホンマにやってまうで」


秋帆は、俺の口にチーカマをいれてきた。


「それ、秋帆好きだよね。」


「なんで?うまいやん」


涙がでてきた、秋帆はおとんにも似てるんや。


「チーカマ、嫌いやったか?」


「ううん、好きやで」


「どうして、泣くの?」


「おとんが、好きなやつやから」


そう言って、頑張って笑う。


「じゃあ、俺は、美月のおとんか、ハハハ」


そう言って秋帆が、頭を撫でてくれる。


「二人は、何で俺の事助けにきたん?」


「美月のお母さんが、助けてくれってきたからやで」


「そうなんやね。」


「もっと早くに出会えてたら助けれたね。」


心春が、寂しそうに目を伏せた。


「過去には、戻れんから」


「そやな」


「わかってるよ。」


俺の目から涙がこぼれてくる。


「幸せになってええんやで!」


秋帆が、頭を撫でてきた。


(幸せなってええよ、みっくん)


おとんと重なった。


涙が止まらなかった。


「幸せになろうよ。僕と秋帆が一緒にいるから…。」


「うん。」


「俺思うねんけど、美月の姉ちゃんは美月を守りたかっただけやで!心春は、美月の為に何でもしたいっていつも俺に言うねん。人殺しでも何でも、美月の姉ちゃんも同じやったんちゃうかな?美月を守るためになんでもしたんやで。その結果がこうなってしもたけど…。お姉ちゃんは、後悔してへんと思うで」


「僕が、お姉ちゃんの立場なら絶対後悔はしないよ。」


そう言って笑った二人を見つめてる。涙がいっぱいたまって目の前が滲んでく。


「みっくんの為なら、何も怖くないねんで。」


こっちゃんの声が聞こえた気がした。



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