秋帆と美月と心春

しばらくしたら、立ち上がった。


「動けるようなったん?」


「キスされてる」


「はっ?」


言われた言葉に、驚いた。


「なんで、そんなんされてるん?」


「名前が、女やから」


「名前?」


「美しい月で、美月やから」


「それだけで、そんなんされるん?」


「うん。」


美月君の話してる言葉をまだ理解できない。


女の名前やからキスされる?


それなら、俺や心春も同じではないのか?


「トイレ止めてごめん。」


下半身の違和感をまだ気にしている。


「軽蔑してくれていいから、キモいって」


ガチャ…トイレから出ていこうとする腕を掴んだ。


「なに?」


「ちょっとだけ付き合って」


俺は、人が通らない階段に連れてきた。


階段に、並んで座る。


やっぱり名前が女とかじゃない。


美月君の唇は柔らかそうで、顔はものすごく綺麗だ。


心春の女の子みたいな綺麗なタイプとは違って、男の子やけど綺麗ってタイプや。


「毎日、キスされてんのか?」


「えっ?」


「こんなに赤くなってしもうて」


その唇に触れるとやっぱり柔らかい。


俺は、持ってたリップをあげた。


まだ、使ってなかったから…。


心春がきて、心春にも紹介した。


「あのな、俺が守ったるから」


「えっ?」


「今日みたいに、俺が守ったるから約束」


そう言って指切りをした。


心春は、飴ちゃん渡してた。


「じゃあな」


俺と心春は、歩き出した。


「ありがとう、秋帆」


「構わへんよ」


それから、俺は、学校の日は毎日美月君を助けに行った。


それでも、あいつ等は飽きもせずにあのトイレに美月君を呼び出す。


ふざけてるんやろか…。


中学二年生の夏、いつもの4人が俺の横を通りすぎた。


「今日、灰原と美月どこいったん?」


「さあな。」


「なんや、二人で消えたんか」


「しらんねん。朝はおったで」


「あそこか?」


「地味に離れてるからいかんわ」


「めんどいな、見に行くんわ」


「すぐ、帰ってくるやろ」


俺は、その言葉に走り出していた。


「天羽、廊下走るな」


「すんません。」


先生に言われて、早歩きにする。


少しでも早く行って、助けないと…。


やっと、ついた。


「やめて」


美月の声が、聞こえた。


ゴンゴン ゴンゴン


「なんやねん」ガチャって扉が開いた。


「どけ」


俺は、そいつをトイレから出した。


かわりに俺が入って、鍵を閉めた。


「なんやねん」


ドンドンと扉を蹴飛ばし殴る。


「はよ、いけや」


「邪魔すんなや、美月は喜んでたんや」


「さっさと消えな、俺、何するかわからんで」


そう、怒鳴りつけたらいなくなった。


美月君は、泣いてる。


「ごめんな。おそなってしもて」


俺が、抱き締めようとすると手で阻止してる。


「ダメやから。そこが何でか」


って、泣いてる。


「気にすんなや。仕方ない事や」俺は、頭を撫でた。


落ち着くまで、一緒に居た。


何回授業の合図を見送ったか、わからんかった。


そんな日々は、最後まで続き中学を卒業した。


俺は、美月君をちゃんと守れていたのだろうか?


「なんで、連絡先しらんの」心春はいつも怒ってた。


ある日、一人で帰っていたら美月君を見つけた。連絡先、聞いたろ

俺は、走って近づこうとした。


ズキン、可愛い女の子と手を繋いで歩き出した。


聞けなかった。


それどころか、胸が痛すぎて堪らなくて走って帰った。


その日の夜、心春に話した。


「それって、恋してんねやん」


「えっ?」


「しらん間に好きなってたんやな」そう言われた。


その日から二人で美月君を探す事を強く誓った。


スカウトの返事をだして、芸能活動も積極的にするが何の連絡もなかった。


8年後、心春にもう無理だと話をされた。


俺は、かまへんよって言って笑った。


「これが、俺の話や。しょうもなかったな。ハハハ」


美月が、泣いてる。


「素敵な話だったよ。」


そう言って、心春が笑った。


「話さなきゃいけないよね」


そう言って、泣いてる美月が俺達を見た。


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