卒業式の出来事

俺は、二人を見ていた。


秋帆君が、新しいワインを持ってきた。


酔いが、いい感じにまわってきたからか話せる気がした。


「なんの、話するんや?」


秋帆君の言葉に、俺は話す。


「連絡先を聞かなかったのも、高校の時に会いに行かへんかったのも、卒業式の日の出来事のせいなんや。」


「それって、何?」


ずっと見ないフリして、嘘をついてた、なかった事にして生きていた。


あの日…。


二人は、女子にたくさん囲まれていたから、俺には気づかなかったし


先生達だって、気づかなかった。


「あの日、最後に五人に呼び出された。俺自身、終わらせたかったから…。」


「うん。」


手が震えてきた、酔ってるはずが頭がクリアになってくる。


「最後だから、ちゃんと終わらせよう」


そう言われた。


「なにを?」って聞いた俺に五人は「わかるだろ?」って笑った。


「よくわからなかったけど、これで終わるならいいと思えた。」


そう言って、涙が止まらない。


「一人ずつ、俺にキスをしてきた。いつもと同じ。かわらない事。ドスって腹を殴られた」


手が震える。


「たくさん、殴られて蹴られて、あいつに邪魔されて苛々してたからって笑った。じゃあ、卒業おめでとうって去っていった。」


やっぱり、思い出すのは辛い。


「でも、これだけで済むのは嬉しくて。トイレの床に寝転がりながら喜んでた。口が切れて、血が出ていたけど気分は幸せやった。」


俺は、ワインを飲んで話す。


「カチャンって音がして、顔を上げたら灰原が立っていた。

戻ってきたのに、ゾッとした。

「大丈夫?」

そう言って、体を起こされた。

血が出てるよ。そう言ってハンカチで俺の口の血を拭き取った。

「俺が、一番美月を愛してんのわかってるやろ?」そう言ってキスをされた。

殴られて蹴られて、体が言うこと聞いてくれなかった。

頭の中は、拒否してるのに体は1ミリも動いてくれなかった。」


俺の頬を涙が流れていく。


「なんか、わからんけど。ブレザーが脱がされてカッターシャツのボタンがはずされていって…。殴られて出来た痣や胸を指で這わされていって」


「もうええ、言わんでええ」


秋帆が、俺の口を手でふさいだ。


心春が、黙って泣いてる。


俺は、その手をのけた。


「ちゃんと言わな。前に進まれへんから」


俺は、そう言って頑張って笑った。


「体が痛いから、動けなくて。やめてって言った言葉も聞いてくれなくて。便所に座らされた。

「最後やから、お別れやからちゃんとせな」って灰原に言われた。

言ってる意味がわからんかった。

ズボンを脱がされた。

何が起きるんかわからんくて、ボッーと見てるしかなかった。灰原は、俺のを…」


そう言った俺の口をふさいだのは心春やった。


「やめて、聞きたくない。僕達が、助けてあげられなかったのを聞きたくない。守ってあげられなかったのを聞きたくない。」そう言って泣いてる。


俺は、その手をのけた。


「助けてくれてたで、ずっと。やけど、ちゃんとケジメつけたかったのは俺やから」


「美月、もうやめよ。」


そう言って秋帆が泣いてる。


「だいたい、察しついてんねやろ?二人は、わかるやろ?だったら、言わんでええか。だから、俺汚いねん。ずっと、汚い。拒まんかったんやから、同類や」


「違う、違う。美月は、汚くないよ。綺麗だよ。悪いのは、向こうで美月じゃない。」


俺の顔を覗き込んで、心春が言った。


「そうやろか?どっかで俺も望んでたんやろ?いつも、そうなってたから」


「ちゃう。そんなん一回も望んでない。俺が、初めて助けたあの日の目いまでも覚えてる。誰にも助けてもらえへんって絶望してる目やった。だから、美月は望んでなかった。汚いなんて思うなや。美月が、綺麗になれるんやったら俺も心春もどんな事でもしたるから…。なんで、あの日俺等に話してくれんかったんや?」


その言葉に、俺は、


「うっー、あー」


声をだして泣いてた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る