なんや俺が殺らんでも、よかったやん

「ふざけんな、ふざけんな。」


そう言って、佐々木はずっと地面を殴ってる。


俺は、哀れなささきを見ていた。


こっちゃんの愛を受け取れず、哀れみの目で見られ、名前を呼んだのは俺の名で…。


それから、その出来事がこいつの人生を奪ってる。


なんや、こっちゃん俺が殺らんでもこっちゃんは自分でこいつを殺ってたんや。


「あの日、こっちゃんが死んでからは夢にまであの声や目が出てくるようになった。毎日毎日、出てくる。酔わな寝れん、酔わな女も抱けん、酔わな忘れられへん。あの日から一回も人を好きになった事もない、あの日から一回も幸せを感じたことがない。」


そう言って、また佐々木は地面を殴る。


地面に血がついてく。


可哀想やと思った。


でも、それと同じぐらいこっちゃんがこいつの人生を殺ってたんやと思うと嬉しくて堪らんくて…。


「アーハハハ、ハハハ、ハハハ」


笑いが止まらんなった。


「なんやねん、美月、頭おかしいんか?」


そう言われても、腹抱えるぐらい笑てまう。


心春も秋帆も、何かに気づいて笑い出した。


「アハハハ、ハハハ」


「なんやねん、お前等全員頭おかしいんか?」


怯えてる佐々木に俺は、言った。


「おかしいに決まってるやん。一番の理解者を俺は失ったんやで。」


そう言って佐々木を見た。


「もう、お前には関わりたくない。そんな目で俺を見んといてくれ。」


そう言って佐々木は、怯えてる。


「だったら、謝れや」


「すみませんでした。すみませんでした。」


何度も謝ってくる。


アホらしくなってきた、佐々木こいつを殺る意味なんてない


「殺そうと思ってたのに、その価値もないね。」


心春が、俺のかわりに冷たい目を向けながら言った。


「どういう意味や?」


「もっと、幸せそうに生きてると思ったのに…。君は、こっちゃんの愛がずっと欲しいだけ、でも、この先、一生もらうこともできない。誰も愛せない可哀想な人。殺さなくても、もうずっと前から死んでる。生ける屍って言葉がよく似合ってる。」


そう言って、心春が笑ってる。


「ホンマに、お前は死んでるわ。そんなに大事な人なんやったら、そんなんせんかったらよかったのにな。ガキやったから、わからんかったんやな。図体ばっかでかくて中身スカスカすぎたんやな」


秋帆と心春の言葉に、佐々木は


「あー、ああー」


泣き叫んだ。


「許してくれ、美月。俺を許してくれ」


泣きながら俺にすがりついてきた。


「俺に、許された所で何になるん?」


「ほんでも、美月はこっちゃんに似てるから。だから、俺を許すってゆってくれ、お願いします。許して下さい。」


何度も何度も、頭を下げてきた。


(もう、許すしかないやん)


秋帆が、った言葉を思い出した。


佐々木こいつは許された所で、何も変わらない。


だけど、家族がいる。


子供がいる。


だったら、そう言うしかないよな。


こっちゃん。


「許す」


俺は、そう言って立ち上がった。


「帰ろうか?」


秋帆と心春に言った。


佐々木は、叫びながらずっと泣いてる。


俺は、佐々木こいつの事が心底哀れでしかたなかった。


俺達、三人は佐々木を置いて歩き出した。


こっちゃんがくれた、ハンカチが赤く染まってる。


「それ、不器用ながらやったんやな。」


秋帆に言われて、ハンカチを見た。


白い糸やったから、見えてなかったんや。


(アイシテル)ってハンカチに文字が浮かんでる。


涙が込み上げてきて、溢れて止まらなかった。


「こっちゃんに、愛されてたんだね。」


心春が、俺の腕に腕を絡ませてきた。


「こっちゃんが、俺の名前を呼んでくれててよかったって思った俺は、最低やな。」


「何で?最低ちゃうよ。俺も聞いてよかったって思った。その瞬間までも、美月を思って愛してくれてたんやろ。すごいよな。二人の絆。」


「本当に、僕には理解できないけど、すごいよ。」


「ありがとう」


秋帆も、俺の腕に腕を絡ませてきた。


並んで歩いて、タクシーに乗って家に帰った。


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