おかんの本心

俺は、リビングにやってきた。


シャ、シャって音がしておかんを見てる。


砥石で、包丁研いでる。


その姿を見た俺は、涙が、あふれてきた。


「ただいま」


「あ、おかえり。切りにくなってたから、久々にやってるねん」


笑ってるけど、目の奥は一切笑ってない。


今まで泣いてたん?


真っ赤な目をしてる。


「おかん、殺したいんやな」


おかんは、包丁を研ぐのをやめない。


「それなら、何でそう言わんの?」


おかんは、俺を見ない。


「大人やからって、飲み込んでどないすんねん。殺したかったら殺したい言うてええねんで!ホンマにするわけやないんやから、なんぼでも俺には言うてくれや」


俺は、膝から床に崩れ落ちた。


あふれる涙を止められなかった。


「みっくん、そんな思ったってこっちゃんは帰ってこんのやで」


おかんは、そう言って包丁を研いでる手を止めて俺を見た。


「だから、なんやねん。こっちゃんが、帰ってこんのなんて俺かてわかってるわ。それでも、俺は、殺るしかないって思ったんや。こっちゃんが、死んだ後も殺されんのがいやや。こっちゃんをこれ以上汚されんのがいややった。だから、殴った。でも、殴っても足りんかったから、殺るしかなかったんや。」


俺の言葉におかんは、俺の前に座った。


「みっくん」


おかんの目から涙がいっぱい流れてる。


「みっくんも、あいつ等受け入れたんか?みっくんを一番酷い目に合わせたんあいつか?」


俺は、頷くしか出来んかった。


「お母ちゃんがな、今すぐ殺したるわ。殺しても殺しても、殺し足りん。普通のやり方でやっても足りん。頭の中で、何回やっても足りん。お母ちゃん、おかしなったんかな?」


おかんが、泣いてる。


「おかしなんかなってへんよ。それは、普通や。我慢せんでええよ。我慢したら、おかしなる。おかんの手汚さんでええよ。俺が、かわりに殺ったるから。」


俺の言葉におかんは、声を出して泣き出した。


「みっくん、お母ちゃん。こっちゃんに会いたいわ。こっちゃんに会って汚くないって抱き締めてあげたいわ。あの頃に戻ってこっちゃんとみっくんに酷いことしたやつを全員殺してやりたい。止められへん。この気持ちとまれへんねん」


俺は、泣いてるおかんを抱き締めた。


「止めんでええねん。それで、ええねん。」


そう言ったら、おかんはよけいに泣いた。


「ごめんな。お母ちゃんとお父ちゃんが、名前間違ったから」


「そんなんもう気にしてへんよ」


そうおかんに言った。


おかんは、めちゃくちゃ泣いて俺から離れた。


「もう、大丈夫や。何か、みっくんに話したらスッキリしたわ。」


そう言って、笑った。


いつものおかんに、少し戻った。


「心春がおったから許すってったんやろ?」


「そうかもしれんな。あの子が、こっちゃんと重なって見えた。」


「俺も、秋帆と心春がこっちゃんに見えた。」


「いつ、出会ったん?」


「中学一年の夏に助けにきてくれたんが、秋帆で。秋帆と話してたら現れたんが心春やった。」


「そうか…ええ子に出会ったな」


「こっちゃんが、連れてきたんかもな」


「お母ちゃんも、今そう思ってたよ。」


おかんは、こっちゃんとおとんの仏壇の前に行った。


「こっちゃん、ごめんね。お母ちゃん、何も気づかんかった。もっとはよう気づいてあげたらよかった。」


そう言って、また泣いてる。


「あのな、おかん」


「何?」


「俺は、大丈夫やから。奈美姉ちゃんと旅行でも行ってきたらええやん」


「何で、急に」


「女同士の方が、色々話せる事もあるやろ?」


「そやけど、みっくん一人に出来へんよ。」


「俺は、一人ちゃうよ。ヒーローがおるから」


俺の笑顔に、おかんは笑ってくれた。


「ほんなら、行こうかな」


「金は、俺が出すし、奈美姉ちゃんにも言うとくから」


「わかった。ハンバーグ作るわ」


おかんは、立ち上がってキッチンに行った。


「服、着替えてくるわ」


そう言って、俺は部屋に行った。



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