電話と許せない気持ち

部屋にはいって、すぐに奈美姉ちゃんに電話した。


「もしもし、みっくんどないしたん?」


その声に泣いてしまった。奈美姉ちゃんに今日の話をした。奈美姉ちゃんも泣いてるのがわかった。


「あんな、おかんと旅行でも行ったってくれへんか?」


「かまへんよ。旦那に話すわ。どうせ行くなら、5泊ぐらいはしたいな」


「わかった。場所は、どこにするん?」


「おかんに決めさせてよ。私は、どこでもいいから。来週の月曜日からで予約とってな。」


「わかった。決まったらメールするから。後は、おかんから詳しく聞いてな。じゃあ」


「はい、じゃあね」


そう言って、電話を切った。


電話を切って、服を着替えてベッドに寝転がった。


沸き上がる怒りを抑えられない自分がいる。


どうしたら、いいんやろか…。


今になって、こっちゃんを守れなかった自分が情けなかった。


佐々木を許せない気持ちが、あふれて止まらない。


同窓会の時には、まだ来てなかった。


佐々木は、中学では全く参加していなかった。


こっちゃんとの約束を守ったのだろう。


佐々木は、今結婚してるのだろうか?


俺は、頭をふって起き上がった。


こんな感情きもちに支配されたっていい事はないのだ。


服を持って、洗面所のかごにいれてキッチンに向かった。


おかんは、昔こっちゃんが作ったハンバーグの歌を唄いながら焼いてた。


「コネコネ、ジュージュー焼きましょう。美味しい美味しいハンバーグ」


「丸い丸い目玉焼き。食べれば笑顔があふれ出す」


「みっくん、覚えてたん?」


「うん、だってこっちゃんハンバーグの日はいつも唄うねんもん。覚えたわ」


「何か、盆踊りみたいな歌やったな」


おかんは、笑ってまた唄い出した。


こっちゃんは、家の中を明るく照らしてくれる存在やった。


こっちゃんが、いなくなった瞬間我が家は真っ暗になった。


いつでも、変な歌を唄って家族を笑顔にした。


誰も、こっちゃんのかわりにはなれずに俺達は何ヵ月もお通夜みたいな日々を送った。


「できたで、立っとらんと座りよ」


「うん」


俺は、おかんと向かい合って座る。


「いただきます。」


「食べ」


そう言っておかんも座って食べだした。


「家でハンバーグするん22年ぶりやな」


「そやな、こっちゃんの一番の大好物やったから」


おかんは、ハンバーグ食べながら泣いてる。


やっぱり、泣くよな。俺も泣くもん。


(みっくん、ハンバーグめっちゃ美味しいな。私、これ大好き)


こっちゃんの声が、頭を響く。


「おかん、最近、俺こっちゃんの声忘れてきてるで。こっちきてから、おかんDVD見せへんくなったから」


「なんか、あの街に全部捨ててきたかったんよ。だから、見なかったんよ。」


そう言って、おかんは泣きながらハンバーグ食べてる。


「そうか。じゃあ、いつかまた見せてな。」


頭の中で必死でこっちゃんの声、繋ぎ合わせるから大丈夫。


「おかん、奈美姉ちゃん来週月曜日から行けるって5泊もしたいらしいよ。どこ行くん?おかんに任せるって」


「そやな、行きたいとこなんて一つしかないわ。」


「久米島やろ?」


「ようわかったな。」


「夏休み、毎年お父ちゃんが連れていくやん。」


「何回も連れて行ったな。あの浜が大好きやったから」


「久米島に三泊、沖縄に二泊のパターンやったな。」


「そうそう、それやわ。それでとれる?」


「やってみるわ」


俺は、ご飯を食べ終わってからスマホで調べる。


おかんは、家族で泊まったホテルを俺に伝えた。


来週月曜日からで、ホテルも飛行機もとれた。


「おかん、いけたで」


「いやー。嬉しいわ。22年ぶりやで。」


おかんは、ニコニコ笑ってる。


奈美姉ちゃんにも、連絡しといた。


「こっちゃんも、連れていきや。女だけで旅行やな」


そう言った俺に、おかんは笑って「初めての女子会やわ」って言った。


俺は、やっぱりおかんには笑っていて欲しい。


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