美澄心春《みすみこはる》

僕は、小学校6年生からこの街に引っ越してきた。


中学は、小学校とは区域が別になった。救われた気持ちだった。


憂鬱って二文字しか浮かばなかった。


また、一から誰かと関係を築く事がとてもしんどかった。


中学校では、二組になった。


入学式で、三組の教室に入る子を見た。


憂いを帯びていて、綺麗だ。


胸が、トクントクンって踊り出す。


僕は、ずっとその子を探していた。


入学式が、終わって待っていても会えなかった。


かわりに、僕に声をかけてきたやつがいた。


「お前、二組やろ?」


「お前、誰?」


「俺は、天羽秋帆あもうあきほよろしくな」


「僕は、美澄心春みすみこはるよろしく」


僕より明らかに、身長が高くて男の子らしいこいつに少しだけ興味が沸いた。


「一緒に帰らへん?」


「なんで、僕なん?」


「なんか、美澄はめんどくさくなさそうやから」


そう言って、歩き出した。


「なんや、それ?意味わからんわ」


「なんでも、ええよ。」


そう言って笑った顔に、こいつと一生一緒におってみたいと思った。


「あんな、僕の秘密聞いてくれへん?」


「うん、なに?」


僕は、天羽の顔が見れずに俯きながら歩く。


「僕な、男の子が好きやねん」


「そうか」


「気づいたんわ。5年生の終わりで、僕、仲良かった真君にキスしようとしてん。受け入れてくれんから、殴ってもうて。問題なって、お婆ちゃんがいるこの街に連れてこられたんや。キモいやろ?」


天羽は、何も言わない。


ママみたいに軽蔑されてる。


真君みたいに、キモいって言われる。


パパみたいに汚い者を見る目で見られる。


「危ない」


そう言って、天羽は僕を自分の胸に引き寄せた。


なに?


「美澄、ちゃんと前向けや。自転車にひかれるとこやったっで?」


「ホンマ、ひかれたってええよ」


「アカンやろ。これから、一生俺の友達でおらなアカンのに死んでどうすんねん」


そう言って、天羽は僕の背中を叩いた。


「歩道やのにおばはん、自転車押せよな。」


チラッと見た天羽は、照れ臭そうに頭を掻いて話してる。


「キモないん?軽蔑せんの?汚い者見るみたいにせんの?ひかへんの?いじめへんの?」


「美澄、俺にいっぱい聞くな。頭パンクしそうやねんけど。」


天羽は、また、頭を掻いて笑ってる。


「ごめん。6年で引っ越してきて仲良なった子に打ち明けたらいじめられてたから。とりあえず、中学は小学校(あっち)の人おらんからよかったけど。もう友達なんか作らんつもりやったから」


そう言って、僕がまた下を向いた。


「だから、美澄。顔あげろや」


天羽は、俺の背中を叩いた。


「ちょっと、話そか。公園あるし」


そう言われて、天羽と公園にはいった。


並んで、ブランコに乗る。


「さっきのやけど、俺、美澄の事何も思わん。キモいとか何も思わん。ただ、かっこいいなって思った。」


そう言われて、僕は初めて天羽を見た。


「だって、俺にはそんな堂々と言えるもんがまだないから」


そう言って、天羽はまた頭を掻いてる。


「俺は、何が好きなんかまだ全然わからん。恋愛だってそうや。男が好きか女が好きかもわからん。だから、美澄みたいに男が好きやねんってハッキリ言えるやつはかっこいいな」


そう言って、天羽はブランコを漕ぎ出した。


僕は、涙を止められなかった。


天羽が、ブランコ漕いでるの見ながら頭の中をママとパパの言葉が流れる。


僕が寝てると思った二人の会話。


「パパ、心春は悪影響やわ」


「そうやな、千春と春菜の為にも離すべきやな」


千春は、一つ上のお兄ちゃんで、春菜は、三つ下の妹だった。


「心春には、お母さんとこ行ってもらうわ」


「ママの実家か?それは、いい考えやな」


「うん、私達も引っ越さなアカンから。心春のせいで」


「家まだ買う前でよかったな。」


「そうやね。」


二人の会話が、ずっと頭に流れていた。


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