心春と秋帆

暗い感情に連れていかれそうな僕に天羽が、声をかけた。


「ボッーとしてんで、これ」


いつの間にかブランコを降りて、僕の隣に立っていた。


ハンカチを渡された。


「僕な、家族がどこに住んでるかしらんねん。」


「どういう意味?」


「お婆ちゃんちに来る日にママが僕に言ってん。心春、ママとパパを探したらアカンよって。心春は、これから美澄の婆ちゃんの養子になるんよって。」


「酷いおかんやな」


天羽は、そう言って地面を蹴った。


「欠陥品なんやって、パパがそう言うてたから。そうなんやろな」


「何やそれ、アホらしい。子供の個性も尊重できんやつわ。こっちから、捨てたらええねん」


天羽は、僕よりも怒ってくれた。


「なんか、胸がスッーってしたわ」


「よかったな。」


天羽は、そう言ってまたブランコに乗った。


「この先、どんな事があっても俺は美澄の味方やから。だから、オレ以外にそんな話すんなや!皆が美澄をどう思うか俺にはわからへんから。な、約束」


そう言って小指を差し出された。


「約束」


天羽は、またブランコを漕いでる。


「あのさ、僕の事呼ぶの心春にしてや。美澄って名前嫌いやねん」


「わかった。じゃあ、心春な!俺も秋帆でええよ。」


「女みたいな名前やない?二人とも」


「ほんまやな」


そう言って笑い合った。


俺と秋帆は、それから毎日一緒にいた。


後、二週間で夏休みに入る頃。


いつもは、使わないトイレに来てた。


鏡の前で、顎にできたニキビを見ていた。


ガタンっ、個室トイレの扉が開いた。


鏡越しに見てると、ぞろぞろと人がでてきた。


何人で、トイレはいるねん。


心の中で、呟いた。


5人が、出て行った。


なんか、中で話してたのかな?


戻ろうかな?


そう言って、振り向いたら。


まだ、中に人がいてビックリした。


俯いてるけど、憂いを帯びた感じがした。


トクントクンって胸が踊る。


間違いない、入学式で出会った子や運命やと思った。


声をかけたい。


僕は、声をかけようとしたけど…


「キモいねん」


頭の中を真君の言葉が、響いた。


「なんで、そんなん言うん?」


「男同士で、そんなんしてるやつおらへんわ。気持ち悪いわ。」


「真君」


「触んなや、キモいねん。」


「なんでや、なんでわからんのや」


あの日、僕は受け入れてくれない真君を殺そうとした。


また、同じになる。


この子にキスがしたくなる。


僕は、見ないフリしてトイレを出た。


何をされていたかわからないけど、彼の頬を涙が伝っているのを見た。


「心春、探したで」


「あっちのトイレ行ってた」


「そかそか!」


「あのさ、秋帆。お願いがあるんやけど」


「なんや?」


僕は、秋帆を人がいない場所に引っ張っていった。


さっき見た光景を話した。


「で、その子を俺が助けるんやな?」


「うん。僕は、歯止めがきかなくなるから…。お願いしたい」


「わかった。助けに行くわ」


そう言って秋帆は、約束してくれた。


僕は、助ける以外の方法で美月君に接触した。


「はい、飴ちゃんあげる。」


「ありがとう」


「午後からも頑張れ」


そう言って笑った。


卒業して、別々の高校に行った。


「秋帆、なんで連絡先聞いてないねん」


「学校でいつでも会えるからいらん思ってたわ」


「あー。なんか、見つけてもらえる方法ないかな」


「これ、いいんやない?」


「音楽?」


「歌うたったらいつか届くんちゃう?」


「やってみよう!二人で」


僕と秋帆は、二人でやった。


高校にスカウトがきて、卒業してから歌手として活動した。


でも、全然美月君から連絡はないからたくさん活動した。cmにもでたし、秋帆も頑張ってくれて、たくさん雑誌も載ったのに美月君から何も連絡はなかった。


来たのは、ママで慰謝料を払えと言われた。


8年目、僕は心も体も疲弊してる事を事務所に伝えた。


10年を節目に辞めさせてくれる事になった。


今は、秋帆と好きな時に歌を作って売る生活にかわった。


「これが、僕の話」


美月は、泣いてくれていた。


「次は、秋帆の番だよ。」


「わかった。」


そう言って秋帆が、話し出す。



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