こっちゃんとお父ちゃん

奈美姉ちゃんは、立ち上がってケーキの箱を開けた。


「さっきは、お母ちゃんとみっくんに酷い事、言ってごめんなさい。こっちゃんに、怒られた」


そう言って、奈美姉ちゃんがこっちゃんのメモを置く。


【悪い事を言ったらすぐに謝って仲直りする事】って、書いてある。


「こっちこそ、お墓参り行かれへんくて、ごめんなさい。」


「ええよ。行くの辛いんやったら、行ける時にいけばいいよ。」


そう言って奈美姉ちゃんが、笑った。


おかんは、お皿を持ってきた。


「そんなんで、こっちゃんもお父ちゃんも怒ってないわ」


「お母ちゃん、お正月は私もお墓参り行くわ」


「家族みんなでいこか、今年からは、12月にもいこかな。お母ちゃん何かちょっとスッキリしたわ」


奈美姉ちゃんが、ショートケーキをお皿に入れた。


500ミリのビール2本とチーカマを袋から出した。


「奈美、これみっくんの好きなやつやねんで」


「みっくん、いつからこれやってんの?」


「二十歳から」


「みっくん、お父ちゃんと一緒やな」


そう言って、奈美姉ちゃんが笑った。


「一緒やなくて、真似してんな」


お母ちゃんが、ビールとチーカマ持って向こうに行く。


「なんで、しっとんねん。」


「ずっと、自分責めてんのはみっくんが一番酷かったから…。最初は、ごめんなさいってないとったわ!今は、ビール2本じゃ酔わんなったから言わんけどな」


って、おかんが笑ってる。


奈美姉ちゃんが、ショートケーキを持っていく。


「みっくんな、飲まれへんかったココア飲むんやで」


「みっくん、チョコレート嫌いやん」


「それは、こっちゃんの為やねん」


「うっさいな、なんでも秘密ばらすなや」


俺は、二人の元に行く。


「覚えてる、バレンタインにこっちゃんがみっくんにあげるの」


「毎年、誰にも貰えへんからって、お母ちゃんと奈美とこっちゃんがみっくんにあげたな。」


「そうそう、でもこっちゃんだけはあげるのイチゴやったな」


「あれは、こっちゃんが食いたかっただけやろ?」


「練乳タップリかけて食べるのが好きやねん。」


そう言って、おかんは冷蔵庫に何か取りに行った。


「小さい頃から、私におおきなったらみっくんと結婚する言うてたで!」


「なんでやねん、出来るか」


「そやそや」


おかんは、苺に練乳タップリかけてもってきた。


「タップリプリプリ、ミルクだよ。」


こっちゃんが、歌ってた歌を唄って供えてる。


「しばらく言わんなってたのに、5年生の夏休みにこっちゃんがお父ちゃんと奈美と三人の前でみっくんと結婚する言うてきたな」


「そうそう。姉弟はできんって知ってから言わんかったのに。突然宣言したんよな。」


「こっちゃんは、お父ちゃんに無理やで言われてもな。みっくんと結婚して一生傍にいるねんって!子供はな、いらんねん。ただ、みっくんを愛してあげるだけやって。」


おかんがそこまで言ったら、奈美姉ちゃんも一緒に話す。


「ほんで、いつか私より好きな人が出来たらしゃーないから渡したるわってさ」 


「二人でハモんなや」


そう言って泣いた。


こっちゃんは、あのトイレでの出来事を目撃したからうたんや。


「本間に、こっちゃんはみっくんが大好きやったよ。」


おかんは、線香に火をつけてる。


「そうそう、双子ってすごいなって思ったもん。」


「ホンマにな。みっくんの為なら死んでもええねんって言うてきた時は、お父ちゃんに頬っぺた叩かれたわ」


「懐かしいな。6年生の夏休みやったな」


そう言って笑ってる。


俺は、こっちゃんの全てを知らなかった。


こっちゃんが、思ってた気持ちを初めてしった。


「守ってやれんかったな」


俺の言葉に奈美姉ちゃんが笑いながら「ずっと守ってたんは、こっちゃんやったよ」って言って笑った。


「こっちゃんは、みっくんの姉ちゃんやからな」っておかんも笑った。


俺は、こっちゃんとお父ちゃんに手を合わせた。


二人も手を合わせていた。


残りの時間は、奈美姉ちゃんと三人で、懐かしい話しをしながら過ごした。


穏やかな気持ちで、久々に眠れた。


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