キスしてみる?

マンションの一室にやってきた。


「今ここ借りてるの」


そう言って鍵を開けて、中に入る。


「秋帆と住んでるんだよ。」


そう言って、どんどん中に入って行く。


「物、あんまないんやね」


「そやねん。俺と心春は、3年前からこんな生活で。あっちこっち転々としてんねん。」


「そうなんやね。今は、この街に住んでるって事?」


「そうそう、今年の初めに住んだんだ。」


そう言いながら、焼き肉をする為の準備を心春君がしてる。


「美月君と付き合うってなるなら、美月君の街に引っ越すよ。」


「だから、そう言うのはやめろって言うてるやろ」


「わかってるよ。」


そう言って笑って、準備してる。


「だから、心春」


「はいはい」


「はいは、一回」


俺のおかんみたいだ。


「笑ってんのか?」


「あっ、ごめん。おかんみたいって思って」


「そっか、おかんか。ハハハ」


そう言って、準備してる。


「肉食おうぜ、肉」


そう言って、準備が終わった心春君が肉を焼いていく。


「野菜も食べるんやで」


秋帆君は、やっぱりおかんみたいだ。


こう見てると、二人は綺麗だ。


心春君は、女の子みたいに細くて、顔立ちも女の子みたいに目の印象も柔らかくて、声も、話し方もとにかく柔らかい。

全てから、優しさが滲み出てる。

眼鏡ない方が、いいのにな。

でも、眼鏡ないとモテそうだよな。


秋帆君は、シュッとしていて、綺麗な顔の男の子だ。

話し方も、声も男らしくて、鍛え上げられた肉体がより秋帆君の男らしさを作り上げてる。

全てから、男らしさを感じる。


心春君は、守ってあげたいけど秋帆君は、守られたいって感じだ。


「焼けたよ。ワインあけよ。」


「はいよ」


そう言ってワインを開ける。


グラスにワインを注ぐ。


「久しぶりの再会に、乾杯」


「乾杯」


俺は、ワインを飲む。


「肉、肉」


「野菜も」


「はい、はい」


「はいは、一回」


そんなやりとりが、繰り広げられる。


「ホンマ、うまいな」


「うまいっすね」


「美味しいな」


そう言って、笑った。


「あのさ、聞いていいんかわからんかったんやけど」


「なに?」


「トイレのやつ、いつからやられてたんや?」


そう言って、秋帆君が聞いてきた。


「小学5年生」


「マジでいってんのか?あいつらか」


「うん」


俺は、初めて話した。


軽蔑されたくなくて、おかんにもおとんにも奈美姉ちゃんにも言わなかった。


唯一、知ってたのは双子の姉ちゃんだけだった。


「辛い思いしてたんだね」


心春君が、俺の頭を撫でた。


「みんなで、向こうで少しだけ話そうよ」心春君の言葉に秋帆君が、火を消した。


ワインとワイングラスを持って、ソファーに三人で並んで座った。


「会ったらちゃんと、お礼言うつもりやった。秋帆君がおらんかったら、俺はあいつらにもっと酷いことされてたし。心春君がおらんかったら学校の授業に最後までおれんかった。ありがとう、ずっと俺を助けてくれて」


俺の目から涙が流れてくる。


心春君が、後ろから俺を抱き締める。


「次に会ったらこうしてあげようって決めてた。」


そう言って、抱き締めてくれる。


秋帆君が、頭を撫でてその手で唇に触った。


「いっつも、真っ赤やったな。もっと早く助けたりたかったけど、キスだけはそしできんくてごめんな。」


俺は、首を横にふった。


「ずっと、キスしたかった。」心春君が、俺の背中に頭をピッタリくっつけて話す。


「してみる?」


俺の言葉に、二人が止まった。


「ええの?」


「うん、でも、三人ではできへんよ。」


「そりゃそうやな。」


「秋帆から、先にしなよ。」


そう言って、心春君が笑ってる。


「僕は、後ろから抱き締めてるよ。」


そう言われて、秋帆君が俺を見つめてる。


「絆創膏、剥がすで」


「うん」


ゆっくり絆創膏を剥がされて、優しく唇が重なった。


「ふぅー」よくわからないけど、息がもれた。


「気持ちわるくなかったんか?」


俺は、恥ずかしくてうつ向いてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る