第13話 犬……?


 ジャスミンさんは悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。

 もしかして、犬が嫌いなのだろうか……?


「じゃ、ジャスミンさん!? 大丈夫ですか!?」

「しょ、ショウキチさん! なんなんですかこれえええ!!!!」

「え……? なにって、犬じゃないですか。ほら。こんなにかわいい」


 俺はジャスミンさんからシロを引きはがして抱っこする。

 シロは今しがた一人の女性を驚かせてしまったことを、悪びれもせず俺の腕の中でニコニコしている。


「い、犬……? っていうんですかその魔物……」

「え……? 魔物……?」


 なにかこう……話がかみ合っていないような?

 もしかしてこの異世界には犬がいないのか?

 いや、でもこうしてここに犬がいるしなぁ……。

 でもジャスミンさんがシロを魔物と呼んだことは事実だ。


「魔物じゃないですよ。こんなにかわいいんですもん」

「で、でもぉ……」

「ほら、なにもしませんから。大丈夫ですよ」

「うう……ほんとですね……。ちょっと慣れてきたら……かわいいかも……です」


 俺がシロを撫でて落ち着かせると、ジャスミンさんもようやくシロの頭に触れた。

 まるで犬を初めて見るかのようなリアクションだが……。

 そんなばかなことってあるのか?


「あの……ショウキチさんはもしかして、テイマーさんなのでしょうか……?」

「はい……? 俺がですか……? テイマー?」


 テイマーといえば、ゲームなんかで魔物を使役するような職業だ。

 だが俺は異世界にきてからまだ魔法の類にすら全然出会っていない。

 冒険者ギルドに行ったわけでもないし、テイマーなんかであるはずはない。


「だって、その魔物をテイムされているじゃないですか……」

「うーん? テイムというか、ただ懐いて飼ってるだけですけどね」

「いやいや飼うっていっても、牛や猫じゃないんですから。からかわないでくださいよショウキチさん」

「えぇ……?」


 牛や猫を飼う概念はあるんだ……。

 じゃあなんで犬だけ魔物扱いなのか……そこがわからない。

 まあとにかく面倒なことになると嫌だから、テイマーということでもいいけど。


「まあコイツは悪いことはしないんで、大丈夫ですよ」

「そうですか……まあショウキチさんにテイムされている魔物なら、安心ですね。さっきは私もいきなりで驚いてしまいました……」


 なんとかジャスミンさんにシロの存在を認めてもらえてよかった。

 シロを人に見せるときは気を付けないといけないかもしれないな。

 テイムされているモンスター用の首飾りなんかが必要だ。

 以前に市場でそういうアイテムを見たことがあるから、こんど買っておこう。


 それにしても、猫は飼われているのに犬がいない世界とは不思議だ。

 まあたしかに、シロは普通の犬とは少し違ってはいるけど……。

 日本にいたときにもこんな犬種は見たことないし額に魔石のようなものはついているし……。

 

 なにか犬とは根本的に別種なのかもしれないな。

 そのときの俺は、そんなふうに軽く考えていた。

 のちにシロの正体がわかるまでは――。

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