第8話 異世界の料理


 しばらく店にいたオッサンたちと話をしながら食事を待つ。

 オッサンたちは冒険者や大工、鍛冶師など様々な職業についていた。

 みんな年の近いやつばかりで、話が合った。

 けっこう年上に見えていたが、どうやら異世界人は日本人より老けて見えるだけだったようだ。

 まあ、平均寿命とかも違うだろうし、彼らはかなりキツイ労働をしていることもうかがえた。

 一方の俺はもう金輪際働かなくていいわけだから、少し申し訳ないな。

 彼らは以前の俺みたいに必死に働いて、それで得た金で酒を飲む。

 それに比べ俺はベーシックインカムでもらった金だ。

 そうだ――!


「いや、やっぱり酒は俺がおごることにするよ」

「マジか!? ショウキチ、太っ腹だなぁ!」

「俺はまだこの街に来たばかりだ。これもお近づきの印というやつだ!」

「うおおおおお! 今日はショウキチに乾杯だ!」


 まだこの街には友達も味方もいないからな。

 これはいい機会だと思おう。

 ずっとここに住むのなら、彼らと仲良くしておいて損はない。

 そうこうしているうちに、レベッカが俺のもとへ料理を運んできた。


「なんだか盛り上がっているようだね? はいショウキチ、これがぼくのおすすめの料理だよ!」


 レベッカが机に置いたのは、肉料理だった。

 鳥の丸焼きを甘辛く味付けしたようなもの……といえばいいだろうか。

 ただし、なんの肉かはさっぱりわからない。

 異世界にどんな生き物がいるのかもまだ未知だ。

 少なくとも、俺の見たことのある生き物の形ではないことは確かだった。

 なんだろう……確かにおいしそうなのだが、食べるのが若干ためらわれる。


「あのレベッカさん……これってなんの肉……?」

「ああ、これはグシャキャバパッキャローの丸焼きだにゃ!」

「ぐしゃ…………? なんて…………?」


 今非常に恐ろしい響きの名前が聴こえたんだが……。

 それって、生き物の名前なんだよな……?

 しかも、食べられるやつ。

 とても名前からはどんな生き物なのか想像もつかない。

 少なくとも、あまり食べたいとは思えないような名前だ。


「え……? もしかしてショウキチ、グシャキャバパッキャロー知らないの!?」

「ま、まあな……い、異国から来たもんで……」

「それってかなり珍しいよ?」

「そ、そうなのか……?」

「この国ではお肉と言ったらグシャキャバパッキャローだからね!」

「マジか……」


 ということは、俺はどうにもこの肉から逃れられないということだ。

 俺はなんとかその形容しがたい肉塊とにらめっこする。


「くそ……だめだ……! なあレベッカ、これがどういう生き物なのか教えてくれないか……!?」

「うーんとねぇ……こう、ここがこんな感じでぇ……それでこうなってぇ……」


 レベッカはその謎の生き物を身振り手振りで説明しようとしてくれる。

 なんか耳に手を当ててぴょんというしぐさをしたのが妙にかわいい。

 どうやらうさぎの亜種のような生き物なのだろうか……?


「それで最後はぁ……こうなってこうなって、それがぐちゃぐちゃっとなったのがグシャキャバパッキャローかな」


 そう言ってレベッカは手ぶりで空中に作ったその生き物をぐちゃぐちゃっと丸める動作をした。

 おいおい……それ絶対生物を説明するときに使わない言葉だろ……。


「…………!? 最後どうなった……!? なんでぐちゃぐちゃっとした……!?」

「えーだって、そういう生き物だよ……?」

「どんな生き物なんだよ……」

「まあまあ、とにかく食べてみて! せっかく私が作ったんだからさ!」

「うー……って、え? レベッカがこれ作ったのか……? レベッカはウエイトレスじゃないのか?」

「うん、普段はそうなんだけどね。今日は……特別っ! ショウキチにぼくの料理食べてほしくって」

「お、おう……」


 レベッカの思わぬ発言に、俺は顔を赤らめてしまう。

 くそ……そんなことを言われたら、食べるしかないじゃないか……!

 だってこんなにかわいい女の子が、俺のために料理をしてくれたんなんて!

 考えただけでも幸せすぎる。


「よし……! じゃあいただきます!」

「うん! 食べて食べて!」


 俺は意を決して、グシャキャバパッキャローの丸焼きに手を伸ばした。

 目を瞑って、恐る恐る口に運ぶ――。

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