第7話 大衆食堂


 腹が減った俺は、一日の栄養を補給すべく、食事に向かうことにした。

 異世界に来てからまだなにも食べていない。

 今日一日は家を確保したり街を見て回ったりで大変だったからな……。

 気がつけば、空はもう夕陽に染まり始めていた。


 食事をすると言っても、ここは異世界だ。

 どんなところで何を食べればいいのかさっぱりわからないなぁ。

 俺はとりあえず街をブラブラしてみることにした。

 街にはいろいろな店があったが、その中でも大衆食堂的なところに入ることにする。


「まるねこ食堂か……」


 物価もわからないままだから、あまり高いところは避けたいという思いだ。

 それに、一般的な食事の雰囲気も知りたい。

 まるで日本の大衆食堂にもあるような青い暖簾をくぐり、中に入る。


「いらっしゃーい!」

「ん…………?」


 元気のいい声で俺を出迎えてくれたのは、またしても獣人の女の子だった。

 というか、レベッカだった。

 さっきあの不動産屋で俺に家を売ってくれたレベッカだった。

 は……?

 まさか、双子の妹とかなのだろうか?

 それとも、獣人の空似か?


「あ、ショウキチじゃん!」

「お、おう……やっぱりレベッカか」


 意味が分からない……。

 家でのんびりしたりしていたとはいえ、あれからまだ5、6時間ほどしか経っていないというのに……。

 なんだこいつは、ドッペルゲンガーかなにかなのか……?


「な、なんで不動産屋の受付のお前が食堂でも働いているんだよ……!?」


 しかもさっきまでは不動産屋にいたのに、立て続けに仕事をしているのか?

 家にも帰らずに?

 まったく違う職業を掛け持ちでなんて、大変だろうに。


「あははー……うち、貧乏なんだよね。だから、こうやっていろいろ働いているわけさ」

「そ、そうなのか。すまない」


 考えればわかることだ。

 俺としたことが、少しデリカシーに欠ける質問だった。

 彼女も昔の俺と同じく、生きるために働いている。それだけのこと。


「それにしても、すっごい偶然だにゃ。もしかしてショウキチはぼくのファンなのかな?」

「あーまあ、確かにすごい偶然だな。というか……運命?」

「にゃ……!? て、照れるにゃ……」

「照れるな照れるな……」


 だが俺としては冗談じゃなく、なにか運命めいたものを感じざるを得ない。

 ジャスミンさんのときもそうだったが、レベッカともなにか縁があるのかもな。

 それか思ったよりもこの街は狭いのだろうか?


「まあ俺としては知り合いがいてよかったよ。この街に来たばかりだから、なにもかもわからないし」

「そうだにゃ。ぼくもショウキチがお店に来てくれてうれしい! 自慢のお店だからね」

「え? レベッカの店なのか?」

「うーん、っていうわけでもないんだけど。一応こっちの仕事がメインかな。とにかくここの料理はおいしんだよ!」

「そっか。それはよかった。じゃあ、レベッカのおすすめを頼もうかな」

「かしこまりぃ!」


 レベッカは厨房へ注文を伝えにいった。

 いったいどんな料理が出てくるのだろうか。

 とりあえず空いている席に腰かける。

 すると、俺のほうをじぃっと見ているオッサンがいた。

 というか、店中のおっさん連中がこちらをにらみつけている気がする。


「な、なんだ……!?」

「おいアンタ。見ねえ顔だが、レベッカちゃんの知り合いかい?」

「あ、ああ……そうだけど……」


 まさか、レベッカに手を出すなとか言われるのだろうか。

 俺としては別にそんなつもりはないけど、面倒ごとはごめんだ。

 まあ、レベッカは見た目も可愛いし、働いている姿も健気だ。

 そんなレベッカにオッサン連中がファンとして付いていても、不思議はない。

 っていうか、俺もはたから見ればその仲間か?


「ようし、アンタ……名前は……?」

「お、俺はショウキチだけど……」

「おっしゃ! ショウキチ! 今日はジャンジャン飲め!」

「えぇ……!?」

「レベッカちゃんの知り合いなら、俺たちの仲間同然だ! 今日は俺がおごらせてもらうぜ!」

「おお……! ありがとうオッサン! っていうか……レベッカって人気なんだな」

「当たり前だ! この店の看板娘だからな。ここに通う俺たちはみんな、あの娘目当てに通っているようなもんよ!」


 まあ確かに、レベッカの大きな胸は魅力的だ。

 オッサンたちの思いには同意する。

 応援したくなるよな、あの元気な姿は。


「よし、じゃあ俺もこの店をひいきにすることにするか」

「おう! ショウキチ! お前はもう俺たちの飲み仲間だ!」


 こうして、俺は異世界で初めての飲み仲間を得ることになった。

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