第9話 グシャキャバパッキャロー


「うまい……!!!!」


 異世界の謎肉、グシャキャバパッキャローを口に入れた俺は、無意識にそう叫んでいた!

 口に放りこんだ瞬間に、ほどよい甘さが広がる!


「なんだこの味付け……!?」


 醤油でもない、ソースでもない、今までに食べたことのないような甘み……!


「これは……果物の甘味か……!」

「そうにゃ! 隠し味はフルーツだよ! ショウキチ、よくわかるね!」

「そのおかげで肉の臭みが全然ない……!」


 この味はなにかに似ている……!

 そうか、照り焼きに似ている……!

 でもただの照り焼きチキンのようなものとは全く違っていた。

 そこにいくつものフレーバーが折り重なって、未知の味を俺の口の中に届けてくれている。

 いったいどんな味付けなんだろうか……?

 これが異世界の料理……!


 しかもそれだけじゃない。

 触感もだ。


「めちゃくちゃ柔らかい……!」


 肉の繊維は確かに感じられる。

 触感で言えば鶏肉に近いのだ。

 だが、歯に挟まるような固い感触は皆無。

 まるで溶けてなくなるかのような、ふわふわ触感だ。

 たとえるなら高級な和牛をじっくり煮込んだような。


「うおおおおおお! なんだこの肉! 超うめええええええ!」

「わーい! ショウキチの口に合ってうれしいにゃ!」


 最初はどんなのだろうかと警戒していたが……。

 さっきのレベッカの説明からは想像もつかないようなうまさだ。

 でも……食べてもなんの肉なのかわからないのが微妙に不気味ではある……。

 マジでいったいなんなんだグシャキャバパッキャローって……。

 まあこれだけうまいんだから、知らないほうが幸せなのかもしれない。


「っていうか、これ本当にレベッカが作ったのか……!? 料理の天才だな……!」

「えー! ショウキチ、もう大げさだよ! でも、えへへーうれしいにゃ!」

「レベッカはいいお嫁さんになるな……!」

「にゃ……!? お、お嫁さん……!? しょ、ショウキチのってこと……!?」

「ち、違う……! そ、そういうつもりで言ったんじゃない……!」


 レベッカは顔を真っ赤にして照れていた。

 俺も迂闊なことを言ってしまったと、少し照れる。

 正直言って、彼女は魅力的だ。

 しかし、今の俺はとても彼女や嫁を作ろうなんていう気にはなれなかった。

 というのも、上司に好きな子をとられてから、人を好きになるのが怖くなったのだ。


「ま、まあとにかく……! めちゃくちゃうまかったよ。ご馳走様」

「ほんと!? よかったぁ……!」

「いやぁ、家の近くにこんなおいしい食堂があってほんとよかった。これで食事には事欠かないな」


 異世界での食事には不安しかなかったが、これで安心だな。

 これはむしろ日本よりも飯がうまいんじゃいのか……!?

 ずっと一人暮らしでコンビニ飯ばっかりだったから、これはありがたい。


「うう……」


 俺は知らぬ間に、涙を流していた。


「しょ、ショウキチ……!? どうしたの? おいしくなかった……!?」

「いや、違うんだ……。人の手料理なんて、数年ぶりだったから……」

「そうなんだ……。いつでも来ていいからね! ぼくがまた作るから……!」

「ああ……ありがとうレベッカ! またくるよ」


 なんだかこうして人と知り合って、話をして……食事を作ってもらって。

 今まで都会で擦り切れた心が、回復していくのを感じる。

 本当は俺はこうして、何気ない幸せが欲しかっただけなんだ……。

 別に大金持ちになったりしたいわけじゃない。

 のんびり暮らせれば、それでよかったんだ。

 まさかそれが、こうして異世界でかなうことになるなんて……。


「はっはっは、ショウキチもここの食堂の常連決定だな!」


 隣で飲んでいたオッサンが俺の背中をドンと叩く。

 なんだかこの街に仲間として受け入れられたような気がした。

 その後も遅くまでみんなで酒を飲んで楽しんだ。

 酒もかなり純度の高いもので、異世界とは思えないうまさだった!


「はぁ……うまかったぁ……!」


 腹いっぱい食って、俺は食堂を出ようとする。

 もう酔っ払ってかなり頭も痛い。


「うう……お会計」

「はい! えっと、このテーブルのお酒はぜんぶショウキチでいいんだよね?」

「ああ、頼む」


 お近づきのしるしに酒をおごったからな。

 けっこうな出費にはなるだろうが、ベーシックインカムで一月分のお金はもらっているんだ。

 そう高を括っていた俺に、レベッカは驚くべき金額を告げた――。

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