第10話 異世界での暮らし


「3,000Gになるにゃ」

「は……?」

「だから、お会計」

「ま、マジか……」


 レベッカの言った金額は、俺の想像以上の値段だった。

 えーっと、今55,000Gもってるから……一回の食事にしてはかなりの出費だ。

 日本円にしたら6万円くらいか……?

 異世界の酒ってそんなに高かったのか……。

 調子に乗っておごるとか言ってしまったのはまずかっただろうか?


「まあ、切り詰めればなんとかなるか……」


 もとよりベーシックインカムで降って湧いた金だ。

 今日みたいに外食しなければ、なんとか一か月暮らせるだろう。

 来月になれば来月の分ももらえるわけだしな!

 馬車馬のように働かなくていいってだけで、かなり気楽だ。


「え……? もしかしてショウキチ、あんまりお金ないの……?」

「いやぁ、ないってわけではないんだけどな……?」

「ぼくがいるときなら、ショウキチの分のごはんくらいはちょっと安くしてあげられるよ?」

「ま、マジか……!」

「ぼくは正式な料理人じゃないし、まかないみたいなものだからね」

「それは助かる……! ってか料理人じゃないのにレベッカ料理こんなにうまいんだな……!」

「もう、ショウキチは褒めるのが上手だにゃぁ……」

「いやいや、マジで!」


 ということで、俺はこのまるねこ食堂に今後も通い続けることになる。

 レベッカのおかげで安く食えるし、なによりもいつもレベッカの可愛い笑顔が見られるからだ。


 翌日街を散策していると、昨日食堂にいたオッサンたちに声をかけられた。


「おうショウキチ! 昨日はどうもな! うまい酒だったぜ!」


 すっかり街に受け入れられた気がして、俺はうれしかった。

 これなら、まあ……金を使ったことに後悔はない。



 それから何週間かが一瞬で過ぎていった。

 俺は家でのんびり暮らしながら、いろんなことを知っていった。

 異世界の風土や常識。

 ちなみにまだグシャキャバパッキャローには出会えてない。

 まあ、知りたくもないけど……。


 ある日俺はいつものようにまるねこ食堂を訪れた。

 食事は毎回レベッカの店で食べる。

 もともと自炊などしてこなかった俺だし、そもそも異世界で料理なんて難易度が高すぎる。

 キッチンといったって、日本みたいな便利な電化製の調理器具はないわけだし。

 それになにより、レベッカの料理はうまかった。


「ショウキチ、このところ毎日来てくれるね」

「ああ、これマジでうまいからな!」

「えへへ……ありがとう」


 レベッカに会えるのも、うれしいことだった。

 こんなに若くて可愛い子が俺のために料理を作ってくれるのだ。

 通わない理由はなかった。


「そういえばレベッカは俺以外の客には料理は出さないのか?」

「うん……まだ見習いだからね。ショウキチだけ特別」

「そっか……」


 なんだか俺だけというのは特別視されているようで、嬉しく思ってしまった。

 少なくともこの時の俺は、レベッカの言葉の真意に気づけないでいた。



 そうやって暮らしているうちに、貰ったベーシックインカムは本当に必要最低限の金であることがわかってきた。

 衣食住が可能な程度の金でしかなく、特別なものを買ったりできる余裕はない。

 もちろん切り詰めればそれも可能だが、俺にはそんな知識もない。

 だから一日中結構暇な時間が生まれていた。

 まあ、今までずっと働きづめだったから、俺にはいい時間だ。


「こうして解放されて、なににも縛られずに過ごしていると、生きてるって感じがするなぁ……」


 家の裏庭で昼寝をしながら、俺はひとりごちる。

 そうしていると体も心も回復してきて、生きる活力が戻ってくる。

 女っ気のなかった俺の暮らしも、レベッカやジャスミンさんのおかげで華やかなものになっている。

 綺麗な女性が身近にいるだけで、まるで学生時代に戻ったような感じだ。


「でもさすがに、そろそろなぁ……」


 毎日外食をしていると、そろそろ財布がさみしくなってきた。

 いくらレベッカがまけてくれているとはいえ、いつまでもこのままってわけにもいかないだろう。

 今後のことも考えると、なにか対策が必要だな。


「よし……! こういうときは家庭菜園だ……!」


 俺は市場に繰り出した。



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