第37話 発注しよう
将棋を作った俺は、それを量産できないか考えた。
俺が作ったのはあくまで1セットの将棋盤だ。
売り物にして儲けようと思うなら、ある程度の個数が必要になる。
たしかこういうものつくりが得意な種族がいたはずだ。
物語でもおなじみの、ドワーフっていう種族だな。
ここエルドールの街にも、いくつか工房があったはずだ。
工房といってもいろいろと種類がある。
調べてまわったが、武器職人ギルドや、錬金術師ギルド、ほかにも様々な種類のギルドがあった。
もちろん、将棋専門のギルドなんてないし、ボードゲーム専門のギルドだってない。
だけど、こういった木の細工が得意なやつはいるはずだ。
「よし……ここだな」
俺が訪れたのは、街一番の家具職人ギルドだった。
【精霊の樹木】と書かれた木の看板をみれば、その加工技術の高さは一目瞭然だ。
どうやら古くから続く老舗の家具職人ギルドらしい。
この街の【精霊の樹木】は本店ではなく、分家らしいのだが……それはまた別の話。
とりあえず、俺はギルドの中に入って、職人に声をかけてみることにした。
「あのー、ギルド長さんはいますか……?」
中に入って、おそるおそる、呼びかける。
ギルドの中ではたくさんのドワーフたちが、それぞれに作業をしていた。
みなすごい集中力で、俺が来たことにも気づいていないようすだ。
そんな中、俺に対応してくれたのは、小さな子供のドワーフだった。
見習い的な立場なのか、雑巾みたいなもので掃除をしているところだったようだ。
「あの、なんの御用でしょうか」
「ギルド長に話がしたいんだ。ぜひ受注したい案件がある。少し難しいというか……特殊な話になるんだが……」
「新製品開発のお誘いですね! ありがとうございます。ギルド長、すぐによんできます」
「ああ、たのむよ。ありがとう」
その小さい見習いくんは、奥にとてとてと駆けていった。
しばらくして、彼の代わりに出てきたのは、いかにもな強面の屈強なオッサンだった。
ギルド長と思しきその人物は、人を寄せ付けないようなほどの威圧感で、俺をにらんできた。
「なんだ、若造か。ガキの工作をやってんじゃねえんだ、つまんねえ用事なら帰んな」
「む…………」
いきなりなご挨拶だな……。
だが、ここは俺もムキにならずに、誠心誠意頭を下げよう。
もとから、無理難題を吹っ掛けるわけだからな。
俺はもともと社畜だったから、この手の商談も経験したことがないわけではない。
相手に要求をのませるには、まずこちらから譲歩せねばならない。
本当はこういうのも、もうごめんだと思っていたんだが……。
快適な異世界ライフのために、不労所得をもっと得たいからな。
俺はなんとか我慢して、満面のビジネススマイルをつくった。
「はじめまして。わたくし、サトウ・ショウキチと申すものでして……。この度は非常に画期的なアイデアを思いつき、それをぜひ実現したく……。そのためには、この信頼のある素晴らしい老舗、精霊の樹木様の技術をお借りできないかと思いまして!」
なんてふうに、立て板に水でしゃべっていく。
ドワーフのギルド長は、俺の話をいぶかしげにきいていた。
表情は硬いままだが、なんとかこれでいけるだろう。
この手の硬い昔ながらの職人は、こうやって技術を素直に褒めれば、わりと話を聞いてくれたりするものだ。
すると目の前のツンデレドワーフおじさんは、すこしせき込んだ後――。
「ま、まあ……うちの技術が街一番だということは認めよう。その辺は話の分かる若者のようだな。うむ。じっくり奥で話をきこうじゃないか。茶くらいはだそう」
よっしゃ!
俺は心の中でガッツポーズをきめた。
とりあえず、話くらいはきいてもらえそうだ。
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