第36話 ゲームを作ろう


 積立や貯金によって新たに金の使い道が生まれた。

 それに、将来の不安もないに等しい。

 冒険者稼業も軌道にのってきたし、そろそろ新しいことをしよう。


「主よ。クエストにはいかないのか?」

「ああ、しばらくは家にこもる。シロは好きにしていていいよ」

「わかった……!」


 俺がそういうと、シロはどこかへ駆けていった。

 やっぱり、普段は外がいいんだろうなぁ。

 シロとの冒険も楽しいが、俺にはやることがある。

 俺は、街の市場にいって、木材を仕入れてきた。


 昼間、家の裏庭で木材を切っていると、ジャスミンさんが話しかけてきた。


「ショウキチさん、なにをされているんですか? そういえば、この前もなにか作ってましたけど……」

「ああ、この前のはシロの犬小屋を作ってたんですよ。でも、今日のは……秘密です」

「はぁ……秘密ですか……じゃあ、完成するのを楽しみにしていますね!」

「はい! そのときはお見せしますよ」


 ジャスミンさんは笑顔で洗濯物を干しに戻って行った。

 今日もジャスミンさんはさわやかな甘い香りがして、とても美しい女性だ。

 俺はひたすら、目の前の木材と向き合って没頭した。


 そして作業すること数時間……。

 夕方になって、ちょうどレベッカも帰宅したころだった。


「できたぁ……!」

「な、なにができたにゃ……?」

「ふっふっふ、これはだな……! 将棋だ!」

「しょ……うぎ……?」


 そう、俺が一日かけて作っていたのは、将棋盤とその駒だった。

 素人が初めてつくったものだから、少々いびつだが、まあ初めてにしては上出来だろう。

 それに、魔法を使って形を整えたりもしたから、普通につくるよりは綺麗なはずだ。


 俺が自慢げに見せる将棋盤を、レベッカは不思議そうに眺めている。


「これは……テーブル?」

「ちがう……! これはゲームだ!」

「ゲーム……?」

「そうだ。将棋といって、俺の故郷で古くから伝わる競技なんだ」

「なんだかショウキチの名前に似てるにゃ」

「そ、そうか?」


 とにかく、レベッカは目の前の見たこともない板に興味津々だった。

 駒の名前はなんとなく、こっちの世界の人にもわかるように書き換えた。

 例えば、角の名前はグシャキャバパッキャローにしておいた。

 そして、飛車は白狼王だ! これはシロも喜ぶぞ!


「とりあえず、一戦やってみるか?」

「いいの……!?」

「ああ、俺が教えるから、いっしょにあそぼう」

「わーい! ショウキチと遊ぶにゃ!」


 レベッカは本当に好奇心が強かった。

 まあ、猫っけのある獣人だからかな。

 好奇心猫を殺すとかっていう言葉もあるくらいだ。

 レベッカはすぐにルールを理解して、どんどん戦法を吸収していった。


「すごいなレベッカ。意外と頭いいんだな」

「ちょっとショウキチ……それってどういうことかにゃ?」

「ああ、わるいわるい……。普段は結構天然なところあるだろ?」

「そ、そうかにゃ?」


 とにかくレベッカは将棋を面白がってくれた。

 これなら、こっちの世界の人にも流行る可能性があるかもしれない。


「ショウキチ、これとってもおもしろいにゃ!」

「おうそうか、よかった! 実はこれ、売り物にしようと思ってさ」

「絶対に流行ると確信しているにゃ……!」

「そんなにか……!」


 レベッカはいたくそれを気に入り、その晩、俺はレベッカと10戦もした。

 まあ、そのうちの何戦かは、将棋じゃなくて、ベッドの上での話なんだけどな……。

 ベッドの上でも、レベッカの好奇心はすさまじい。

 どちらの戦いも、そのうち俺が負けそうだな……。



【あとがき】



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