第35話 積立MESA


 金融ギルドを訪れたのには、訳がある。

 俺の場合はインベントリにいくらでも金をしまえるが、それだと数字は増えない。

 口座を開設して、積立なんかをすることで、いくらか金が増える仕組みがあるようなのだ。

 そういったことは現代日本でもさかんに行われてるが、まさか異世界にきてまでそういうことをするなんてな。

 思ってもみなかった。

 金融ギルドの中に入り、受付のお姉さんに話しかける。


「あの、あたらしく積み立てをしたいんですが」

「えーっと、積立にはいろいろな種類がありますが、どうされますか?」

「種類……?」


 そういえば、そんなこと考えたこともなかったな。

 まずこの世界の金融システムがどうなってるのかもわからないしなぁ……。

 この世界がどういった大陸や国があって、どういう情勢なのかも全然知らないままだ。


 お姉さんは金融の仕組みについていろいろと資料を使って話してくれたが、詳しくないのでさっぱりだった。

 日本で社畜をしていたころも、株とかいろいろ調べたことがあった。

 働きたくない俺からすれば、株とか積立とかで金が入れば、この上なくうれしいことだからな。

 でも、結局俺にはさっぱりだったんだよなぁ……。

 読んだ本や調べ方が悪かったのかもしれない。

 そもそも興味ないことは覚えられない性質だからなぁ。


 結局、お姉さんの言葉をきいてもちんぷんかんぷんだ。

 あれ……なんでだ。

 魔法の書物はあれほど楽に理解できたのに。

 まあ人には向き不向きがあるよな。

 というかこういうのは、素人が浅知恵を働かせるよりも、プロに任せるのが一番だ。


「えーっと、とりあえずおすすめのってあります?」

「そうですねぇ……。おすすめするにしても、ご予算は?」


 そうか、そもそも予算にもよるよな。

 月にいくら積立できるのかっていう話だ。

 俺の場合、生活費はベーシックインカムで十分暮らせている。

 レベッカの稼ぎもあるから、余分な金にも困っていない。

 まあ、レベッカに頼るつもりもないんだが……。

 レベッカの欲しいものとかは、レベッカが自分の金で買ってきたりもする。

 あとはクエストでの収入なんかを考えると――。


「そうですねぇ、10万円ほどで」

「え……!? 月々10万円もですか……!?」

「ええ、まあ……」

「も、もしかして……お若く見えてなにか大ギルドのギルド長さんだったりするんですか……!?」

「いや、ただの冒険者です……」

「それはすごいですね……一流の冒険者さんということですね」


 受付のお姉さんは大げさに驚いていたが、俺としてはそこまでの冒険者とは思っていない。

 ほとんどシロの活躍のおかげもあるからな。

 白狼王のシロにかかれば、倒せないようなモンスターはほとんどいない。

 それこそ、クエストとして冒険者ギルドに貼られているようなものなら、マジで楽勝だ。

 ほかにも、素材集めの採集クエストなんかでもシロは大活躍できる。

 シロの鼻と脚をつかえば、採ってこれない素材なんてない。

 まあ、簡単に荒稼ぎできてしまうというわけだ。


「月々10万円でしたら……この積立MESAがおすすめですね」

「積立MESA……?」


 なんだか、どこかできいたことのあるような名前だ。

 それぞれ、なにかの頭文字の略なのだろうか。


「面倒くさい人のための、エッセンシャルな素晴らしい商い。の略です」

「なんだかなぁ……」


 とってつけたようなその名前に、俺は苦笑するのだった。

 だが条件などをきいてみると、どうもその積立MESAが俺にはベストなようだった。

 というわけで、俺はお姉さんに10万円を預けた。


「これで、数年後には大金持だな……!」


 まあ果報は寝て待てというから、とりあえずは気にしないで、これは念のためのお金にしよう。

 今はベーシックインカムでなんとかなってるが、そのうちさらなる大金が必要になることがあるかもしれないしな。

 それに、もしも……もしも万が一、ベーシックインカムがなくなったときにも、積み立てをしておけば安心だ。

 まあ、そんなことはないはずだけど――。

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