第34話 金融ギルド


 このエルドールの街に引っ越してきて、大体3か月ほどが経った。

 異世界での生活にも、だいぶ慣れてきた感じがする。

 そこで俺は、また新しいことをいろいろやってみようと、考えていた。


「ずっと前から気になってはいたんだよなぁ……」


 俺がやってきたのは、街の大通りにある大きな建物だった。

 少し格調高い感じの、いかにもな建物だ。

 そこは、日本でいう銀行だった。

 金を預かってくれたり、引き出せたり、他にも金に関することならなんでも、といった施設らしい。

 その辺のことは、門番のレギムにいろいろ教わった。

 建物の看板には【金融ギルド】の文字が、黄金色で刻印されていた。


 ちなみに、金のこととなると、日本円と単位が違うので、いろいろとややこしい。

 今まではそれほど大きくない金額しか扱ってなかったし、いっぺんに大金を使ったのだって家を買ったときくらいのものだ。

 それに、言われた金額を使うだけだったから、特に不便はなかった。


 金融ギルドに今まで来なかったのは、預けるような金もなかったからだ。

 最近冒険者ランクがかなり上がって、実入りもいいので、そろそろ……ということでやってきた、というわけだ。

 預ける金がなければ、金融ギルドになんか用はないからな。


 だけど、金融ギルドなんておっかない名前のところに入るのに、そのままだとやっぱり不便だ。

 そこで俺は、久しぶりにサポートAI《カガリ》を呼び出してみることにした。


「なあ、カガリ。いるか……?」


『はい、お呼びでしょうか。ショウキチ様』


 どこからともなく、声がする。


「おお……! ずっといたのか……?」


『ええまあ、これも実験の一環ですから』


「そっか……まあいいや。それはそうと、用があって呼び出したんだ」


 俺はカガリに、金の単位を日本円と揃えられないかきいてみた。

 すると、カガリはすぐに俺にサポートアプリケーションをインストールする、と言い出した。


『サポートアプリをインストールすれば、ショウキチ様の主観では日本円として表示させることも可能です。もちろん、他の人からはちゃんとGとして見えます』


「おお、それは便利だ! すぐにやってくれ! って……インストールってことは、またあの頭痛くなるやつ……?」


 最初にこっちに連れてこられたときにも、なにやら翻訳プログラムなるものをインストールされた覚えがある。

 あの時は、脳が焼けるような痛みを経験した。


『まあ、脳に介入して認識を変更するプログラムなので……その点はがまんしていただくしかありません』


「そ、そうなのか……まあ、一度やってるしいいか……」


 今更、なにも怖いものなんてない。

 カガリはすぐに俺にプログラムをインストールしてくれた。


「いででででで……っつーーー!」


 なんとか我慢できる痛みだが、かなり奇妙な感覚だ。

 インストールが終わると、なにごともなかったかのようにまったく痛みが引いていくのも、逆に怖い部分だ。


『これにてインストール完了です。試しに、インベントリを開いてみてください』


「えーっと、インベントリ・オープン!」



――――――――――――

佐藤正吉 27歳

所持金  1,512,350円

――――――――――――



「うおおおおお……!? ちゃんと円表記になってる……!」


 っていうか俺、百万円も溜めてたのか……。

 まあ、冒険者としてクエストを受けるだけで、かなりもらえるようになったからなぁ……。

 それに、生活費がベーシックインカムで賄えるから、ほぼ全部貯金できてしまう。

 けっこう使ってるとはいえ、まだこれだけ残ってるなんて。

 今までに、この短期間でかなり稼いだことにならないか、コレ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る