第38話 いざ、対局!


 ドワーフ親方とともに、ギルドの裏へ通される。

 応接間みたいな、机とソファのある商談用の部屋だ。

 無骨な工房でも、裏はこうやってちゃんとした小奇麗な部屋があるんだな。

 まあ、当たり前か。


「それで、お前さんは何を持ってきてくれたんだ?」


 ギルド長のオーガスは、不愛想に酒を注ぎながら、そう尋ねた。

 酒をうけとり、軽く乾杯したあと、俺は答えた。


「ぜひ、こちらをご覧ください」


 俺は将棋盤を目の前のテーブルに置いた。

 オーガスは不思議な表情をしながらも、不快ではなさそうだ。

 やはり職人としての好奇心からか、謎の遊戯盤に興味津々なようだ。


「これは? かなり精巧な技術でつくられているようだが……ふむ……」


 オーガスはまず、これがなんのためのものか、というよりも、その技術面が気になったようだ。

 たしかに、ここまでの細かい細工は、俺も難しかった。

 まず、将棋盤を平らにつくるのにかなり苦戦した。

 なによりも、小さな将棋の駒に、グシャギャバパッキャローの文字を掘るのが一番大変だった。


「ええ、この一式を作るのには丸一日かかりましたよ。どれも細かい作業でしたからね」


 だが、日本人として社畜をやっていた俺にとってはどれも不可能ではない作業だった。

 むしろ、こんな単純作業のほうが、いくらかましだ。

 プラモデル作りが趣味だったのもあって、手先の器用さと集中力には自信がある。

 そこに魔法のコントロールがあわされば、できないことではなかった。


「な……!? ちょ、ちょっとまて若造。このすばらしいアイテムを、お前さんのような若造が作ったのか……!? しかも、丸一日だと……!? 一人で一日でか!?」

「ええ、まあ……そうですが」

「これは驚いた……。こんなことが可能な職人は、うちのギルドにもいないぞ? どうだ、お前さん。ケチな商人なんてやめて、うちで職人として働かんか……?」

「え、遠慮しておきます……」

「そ、そうか……それは残念だ」


 なんだか別の部分で認められてしまったみたいだ。

 だが、俺としてはこんな厳しそうな親方のもとでまたあくせく働くなんて、マジでごめんだ。

 俺がこの将棋盤を苦労して作ったのは、さらなる不労所得のためなんだからな。


「それで、この板をうちに持ち込んでどうする気だ? たしかにすごい技術だが、うちでも似たようなものは時間をかければ作れんこともない」

「これはただの板ではございません」

「なに……?」

「百聞は一見に如かず。まずはどうです? 一勝負!」

「ほう? この私と勝負しようというか、若造よ! 賭け事は好きだ! かかってこい!」


 オーガスは乗り気なようだが、まあ賭け事ではないんだがな……。

 説明するのも面倒だから、そう思ってもらうことにしよう。

 別に異世界なんだから、賭け事が禁止されてるわけでもないんだから。





「ぎゃああああああああ!!!! くそ、もう一回だショウキチ! もう一回!」

「はいはいオーガスさん、わかりましたよ……」


 オーガスは俺に負けると、子供のようにムキになってもう一回とせがんだ。

 ふぅ……これがひげもじゃのオッサンじゃなくて、もっと可愛い女の子ならいいんだが……。

 まあ、気に入ってもらえたのなら成功だ。

 俺はそのまま、オーガスと日が暮れるまで対局した。


「はぁ……くそ、ぜんぜん勝てぬではないか。だがショウキチ、これは非常によくできた遊戯だな!」

「どうも」


 まあ、そりゃあ何千年も楽しまれている遊戯だからな。

 出来がいいのは当たり前だ。


「それで、オーガスさん。これを量産することはできますか? これを売り出して、大々的に流行らせようと思うのですが」

「なるほど、そういうことか。それなら、我ら精霊の樹木が全力を持ってサポートしよう!」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、だってこのままショウキチとやっていても、一向に勝てなさそうだからな! これが街で流行れば、私も勝てるようになるだろう! しかもこうやって一足先にルールを知っておるから、賭け事で負けなしじゃわい! がっはっは!」

「そ、そういうことですか……」


 まあ理由はなんでもいい。

 ということで俺は、精霊の樹木に依頼して、将棋セットをたくさん作ることにした。

 あとはこれを売り出して、もうけをたくさんだしたいな。

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