第28話 門番と仲良くなる


 街に着くと、門の前でなにやら言い争いをしているのが見えた。

 とりあえず、シロのこの姿を見られるのはまずいから、小さくなってもらう。

 門番と言い争っているのは、商人風の男だった。

 巨大な馬車を、いくつも引き連れている。

 少し、横で話を聞いてみよう。


「おい、いいからさっさと中に入れないか!」

「それはできない決まりだ。奴隷を連れて中に入ることはできない」

「俺様は大商人バッカス様の使いだぞ!」

「それでも無理なものは無理だ。この街では奴隷は禁止している」

「っく……! うるせえ!」


 これは……面倒なもめごとだな。

 たしかにこの街は平和で、奴隷なんて見たこともないな。

 それを無理やりに突破しようということか。


「いいからお引き取り願おうか。これ以上の会話は無用だ」

「そうかい、会話が無用ならお望み通りにそうしてやるよ! 死ねえ!」


 くそ、商人がしびれを切らして、暴挙に出た。

 馬車から屈強な男たちが現れて、門番を取り囲む。

 平和なこの街に門番は2人しか常駐していない。

 このままじゃ、やられてしまうかもしれない……!


「くそ、どうしよう……」


 俺になにができるだろうか。

 多少魔法が使えて、モンスターが倒せる程度の俺に……。

 いくらなんでも、あれだけの人数相手に勝てるとは自分でも思えない。

 俺が二の足を踏んでいると、シロが俺に話しかけてきた。


「ショウキチ、我に任せろ」

「え……!? でも、お前の姿を見られるわけにいかないだろう?」

「我の力を使え」

「ど、どうやって……!?」

「霊獣契約だ」

「な、なんだそれ……!?」


 俺は言われるがままに、シロと契約を交わした。

 シロに手のひらをアマガミさせて、契約を結ぶ。

 すると、心の中でシロの声が聴こえる。


「な、なんだこれ……!?」

「ショウキチ、少し体を借りるぞ」

「えぇ……!?」


 瞬間、俺の身体が一気に身軽になる。

 まるで獣のように、瞬時に移動して、門番たちのもとへ駆けつける。

 シロの身体能力が、俺に乗り移ったかのようだった。


「うおおおおおお!!!!」

「な、なんだお前! どこから来やがった!」


 ――ズド!

 ――ドゴ!

 ――バキ!


 俺はそのまま、悪漢たちをぼこぼこにしていった。

 不思議なことに、まったく苦戦することなく無双できた。

 これが……シロとの霊獣契約の力なのか……!?


「ふぅ……疲れた……」


 身体からシロが抜け出ると、一気に体に痛みが走る。

 シロが無理やり俺の肉体をドーピングしてたってことなのかな。

 シロはなにごともなかったように、俺の足元へ子犬の姿で駆け寄ってくる。


 商人たちは急いで馬車を引き上げていった。


「ひ、ひぇええ……化け物……!」

「た、ただじゃおかねえからな!」

「大商人バッカス様に逆らった報い、覚えておけよ!」


 やつらはそんな捨て台詞を吐いて、草原の向こうへ消えていった。

 あっけにとられていた門番が、俺のもとへ駆け寄ってくる。


「あ、あんたは……助かったよ」

「ああ、俺はショウキチ。礼はいらないさ。自分の街がピンチなら、助けるに決まってる」

「そうか、ありがとう。ショウキチ、あんたこの街に住んでるのか」

「ああ、なんどかここも通ってる」

「ぜひお礼がしたい……いや、礼はいらないんだったな……じゃあ一杯のもうじゃないか!」

「はは……まあ、それならいいけど……」


 ということで、俺は門番と仲良くなり、そのまま飲みに行った。

 門番はレギムという名前の男で、歳も近く、とても気が合った。


「今日は俺のおごりだ」

「礼はいらないと言ってるのに……」

「いいから飲め。お近づきのしるしだ」

「わかったよ」


 こっちにきて、また飲み友達ができた。

 しかも歳の近い、好青年だ。

 俺は上機嫌で帰宅した。


「ふぅ……酔った酔ったぁ……」


 そして、家に帰ると――。


「んぁ……!?」


 なんと玄関の扉の前に、見知った人物が鎮座しているではないか。

 そう、まるで捨て猫のように、しゃがんで、こっちを見ている。


「ショウキチぃ……」

「レベッカ……!?」

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