第12話 犬を拾った
ジャスミンさんにサラダッダをあげて喜ばれたことに味をしめ、俺は家庭菜園にはまりだしていた。
サラダッダ以外にもよさそうな野菜を市場で見繕っては庭に埋めた。
なんとも不思議なことに、サラダッダ以外の野菜も俺の家の庭に植えると爆速で伸びていくのだった。
これもベーシックインカムの特典かなにかなのだろうか……?
さすがに少し不気味に思い、サポートAIに聴いてみることにした。
「なあカガリ、この家になにかしたか……?」
『いえ、こちらで支給するベーシックインカム以外に、我々は一切佐藤様に関与はしません。そういう決まりですので』
「そうなのか……」
だとすると、よほど俺の運がいいのだろうか?
まあ、今のところ問題はないから気にしないでおくか。
◇
いつものように俺が庭で農作業をしていると――。
「くーん……」
どこからか犬の鳴き声のようなものが聴こえてきた。
こんなところに犬……?
俺は庭を見渡すが、どこにもそれらしきものはいない。
音のするほうへ寄っていくと、草むらに隠れるようにして子犬が倒れているのを見つけた。
「おいおい……! 大変だ……!」
どうやら子犬は軽くけがをしているようで、ぐったりしている。
お腹もすいてるのだろうか、子犬の口元には俺の庭から勝手に食べたであろう野菜の食べかすがついていた。
けがをして、腹をすかせてここまで流れ着いたのかもしれない。
俺はかわいそうに思い、毛布をもってきてくるんでやった。
「大丈夫か……!? なにがあったんだ……。ひどい……!」
子犬のけがは明らかに人為的に与えらたものだった。
平和な異世界だと思っていたけど、子犬にこんな虐待めいたことをするようなやつもいるんだな。
「俺がしっかり面倒みたやるからな……!」
「くーん……!」
白いその子犬に、俺はシロと名付けた。
安直なネーミングだとは思うが、我ながらセンスがないから仕方がない。
幸いなことにシロは庭にある野菜を気に入っており、エサにはこまらなかった。
どうやらこっちの世界の野菜は犬にも人気のようだ。
特にお気に入りなのがミートリーフという野菜だ。
ミートリーフはまるで肉のような触感のする葉っぱ状の野菜。
まあ結局は肉が食べたいようだから、そのうちちゃんと肉も買ってきてやろう。
◇
そうやってしばらく看病をして、世話をしてやっていると。
シロはあっという間に元気になった。
ふつうの犬と違って、こっちの犬はかなり再生力も高いようだ。
これもなにか魔力的なものが関係しているのだろうか?
「わん! わん!」
「はは……! 元気になってよかったな……!」
シロはまるでお礼を言うかのように俺の口をなめまわす。
あれほど艶のなかった毛並みも、今ではまっさらなシーツのようにつるつるで、毛布のようにもふもふだ。
世話をしてやったからか、シロはかなり俺になついてくれた。
別に飼う気はなかったのだが、ほっといてもどこかにいく気配はない。
今日も元気に裏庭ではしゃぎまわっている。
そんなある日のこと――。
「しょ、ショウキチさん……!? そ、それって……!」
シロと庭で遊んでいると、ジャスミンさんと鉢合わせた。
ちょうどジャスミンさんは井戸に水を汲みにきていたようだ。
「ああ、ジャスミンさん。こんにちは。こいつシロっていいます。へへ、かわいいでしょ」
「しょ、ショウキチさん……」
「はい……?」
なぜだか理由はわからないが、シロを見るなりジャスミンさんは表情を変えた。
ジャスミンさんの顔がどんどんひきつっていく。
シロも俺も、なにもわからずにジャスミンさんを見つめるばかりだ。
「くーん……?」
シロがそう声をだしてジャスミンさんに寄って行ったそのときだった。
「きゃああああああああああああああああ!!!!」
「ジャスミンさん……!?」
なんとジャスミンさんは大声を出してその場にしりもちをついた。
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