第24話 包容力


 ミーナさんと食事を楽しむ。

 出された料理はどれも上手く、非常に満足のいくものだった。

 食材も高級なかんじで、まさにこれぞ上質な料理という感じだった。

 だけど、まあ……俺はレベッカが作ってくれるあの優しい味も好きだなぁと思った。

 ミーナさんは高い料理を素直に喜んでくれたみたいだ。


 食事が終わったあと、俺たちは夜の街をあてどなく歩いていた。

 このまま帰ろうと俺が思っていると……。


「ねえショウキチ、このあと……うちに来るかい……?」

「えぇ……!?」


 ミーナさんは少し頬を赤く染めて、そんなことを言い出した。

 ちょっと待て、俺には下心なんて……。


「どどどどどういうことですか……!?」

「どういうことって……そういうことだけど……? というか、そっちもそのつもりで誘ったんじゃないのかい?」

「い、いえ……俺は……」

「もしかして、恋人でもいるのかい?」

「い、いませんけど……」


 レベッカやジャスミンさんは、あくまで女友達だ。

 それに、俺には彼女たちに対してもそんな気はない。


「なら、なにも問題ないだろう?」

「お、俺……今はそういう気になれなくて……」

「不能なのかい?」

「ち、違います……! その、恋人を作る気にはなれないんです……。今は……まだ」


 俺が暗い表情を浮かべてそういうと、ミーナさんは明るく笑い飛ばした。


「別に恋人になろうなんて言ってないわよ。ただ一晩だけ」

「そ、そそそそ……そんなのアリなんですか……!?」


 ミーナさんはいたずらな笑みを浮かべて、俺に胸を押し当ててくる。

 正直、理性がどこかへいって狂いそうだった。


「なに? もしかしてショウキチ、童貞さんなの?」

「そ、そそそそうですけど……悪いですか?」

「ふふん、だったら、お姉さんに任せなさい!」

「ちょ、まだ俺はなんにも……」


 なし崩し的に、俺はミーナさんの家に持ち帰られてしまった。

 ミーナさん、年上で経験豊富そうなお姉さんだけど、ここまで積極的だなんて……。

 もしかして異世界ではこれが普通だったりするのだろうか?


「あ、あのミーナさん。ちょっと待って。俺、本当にそんなつもりじゃ……。それに、ダメですよこういうの……」

「もう、私がここまでしてるのになにが問題なのかね?」

「俺……恋人は作らないと決めたんです……」


 俺は上司に同僚をとられて、こころのそこから傷ついた。

 だからもう、誰も好きにならないと決めていたんだ。

 もう、傷つくのはごめんだ。

 せっかくのストレスフリーな異世界なんだから、そういうのはもう嫌だ。


「ショウキチ、なにがあったか、お姉さんに話してごらん?」

「ミーナさん……」


 ミーナさんは俺を抱きしめて、話を聞いてくれた。

 俺はミーナさんのエベレストに顔をうずめながら、話をきいてもらった。

 すると、不思議と心が軽くなった。

 受け入れてもらえた気がして、心が落ち着いた。

 ものすごい包容力だ。


「そっか……じゃあなおさら、お姉さんにまかせなよ。ショウキの心と体の傷を……癒してあげるからさ」

「ミーナさん……いいんですか……?」

「傷つくのが怖いなら、誰も好きにならなくてもいいけどさ。もったいないよ。せっかくいい男なんだから」

「そんな……俺は別に……」

「ほら、はやくこっちへ来な」


 ミーナさんは俺をリードして、ベッドへと誘ってくれた。

 俺はそれに言われるがままに従う。

 あれほど女性を避けていた俺だったが、すっかり彼女の優しさにほだされてしまっていた。

 たしかに、俺は臆病になりすぎていたのかもしれない。


 恋人を作る気にはまだなれないが、それでもこうやって楽しむのは、アリな気がしてきた。

 異世界の人たちがこうやって俺を受け入れてくれるのなら、俺もそれに身を任せよう。


「ミーナさん、本当にいいんですね……?」


 据え膳食わぬは男の恥ともいうしな。

 ミーナさんがここまでしてくれるのだ、俺は答えないわけにはいかない。


「ショウキチ、来て。大丈夫、私は責任取れとかうるさいことはいわないからさ。都合よく気晴らしを楽しもう?」

「はい……。ミーナさん」


 俺はこうして、その夜初めての体験をした。

 ミーナさんは抜群のプロポーションとたぐいまれなる包容力で、俺を優しく包んでくれた。

 失恋の痛みが、ほんの少し癒えた気がした。

 彼女には本当に、感謝しかないな。

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