第21話 オーク襲来


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ――ドシン!

 ――ドシーン!


 大きな地鳴りと、雄たけび。

 森の奥から現れたのは、なんと身の丈3メートルほどはありそうな緑色の巨人だった。


「こ、これって……、ゴブリン……!? じゃ……ないよな……」


 明らかにさっきまでの小鬼たちとは違いすぎる。

 そう、こいつはオークと呼ぶにふさわしい見た目をしていた。

 それもただのオークじゃない。

 タイラントオーク――巨大化したオークだ!


「や、やべえってこれはさすがに……!」


 恐怖で足が震える。

 今すぐここから逃げなければならない。

 だけど、思うように足が動かなかった。

 さっきまでの戦いが、ゲームだったかのように生ぬるいものに感じる。

 こいつは正真正銘の怪物だ。


「うわああああああああ!」


 タイラントオークが俺の眼前に迫る。

 そして、大きく手を振りかぶった。

 だが俺はこの期に及んで動けずにいた。

 どうしても足がすくんでしまい、逃げられない。


 そんな……!

 せっかく平凡な暮らしを手に入れたというのに、ここで終わるのか……!?

 覚悟を決めて目を瞑った、その時――。


「ガルルルルル……!」

「シロ……!?」


 足元から小さな相棒が、巨大な強敵めがけてとびかかっていった。

 まずい、ただの犬っころであるシロに、あんなバケモノの相手……つとまるわけがない……!

 しかし、俺の予想に反して、悲鳴を上げたのはオークのほうだった。


「グオオオオオオオオオオオオ!!!?」


 シロはオークの足元にかみついて、離さない。


「シロ……!」


 小さな体だというのに、ものすごい威力の攻撃だ。

 きっと、俺がピンチだと察して助けてくれたのだろう。

 シロは俺に逃げろとばかりに尻尾をふって合図してくる。

 そして今も鼻息荒く、オークを絶対に離さないと食らいついている。


「シロ、お前……!」


 俺を思って、シロが勇気を出して前に出たことに感動してしまう。

 だが、このままだとシロが持たない。

 さすがにオークと体格差があるのか、いまにも引きはがされそうだ。

 オークも足元の痛みに慣れてきている。


「こんな小さな体で頑張ってくれてるのに、飼い主の俺が逃げるわけにいかないよな……!」


 俺はなにをビビッていたんだ。

 せっかく手に入れたセカンドライフを、友達を、守れるのはこの俺以外にいないじゃないか……!

 それに、俺には魔法という強力な武器もある。

 シロという、頼もしく忠実な相棒も……!


「うおおおお! あとは任せろ……!」

「ガルル……!」


 シロが作ってくれたこの好機を、逃すわけにはいかない!

 噛みつかれて身動きがとれなくなっているオークめがけて、俺は狙いをすました。

 もともと大きな的だ、絶対に外しはしない。


「ファイア……!!!!」


 ――ゴォオオ!!!!


 俺が唱えると、さっきまでとは比べ物にならないほどの業火が出現した。

 そしてオークの上半身を、一瞬にして黒焦げにした。


「ワンワン……!」


 着弾と同時に、シロがオークから離れてこちらへ戻ってくる。


「グオオオオオオオオオオオオ……!!!!」


 そのままオークは火だるまになって、地面に倒れた。

 ――ズドーン!


「やったぁ……!」


 なぜゴブリンを倒していたときよりも、魔法の威力があがったのだろうか。

 レベルという概念があるのか、それとも使い慣れただけなのか。

 いずれにせよ、戦えばそれだけパワーアップもできるみたいだ。


「よし……! よくやったぞシロ……! ありがとうな! お前のおかげでたすかったよ」

「ワンワン……!」


 シロを撫でてやると、尻尾を振って喜んでくれた。

 これは町に帰ったら、たくさん肉を買ってやらなきゃだな。

 クエストの報酬が出るから、それで賄えるだろう。

 こうして、俺の初めてのクエストはひやひやする場面もありながらも、無事に事なきをえた。

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