第40話 大繁盛!
商品がある程度そろったことで、俺たちはようやく店を開く。
まず商品棚にいろいろ並べていくことから朝は始まる。
まだ今日からの店だから、誰も客はこない。
そのうち口コミで広まってくれればいいのだが……。
とりあえず俺とレベッカで朝の誰も来ないうちに商品を並べてしまおう。
まずは石鹸と、それから俺の庭で取れた野菜。
それから将棋盤に、フィギア。
レベッカのつくったお手製お弁当と、シロのとってきた獣からとれた毛皮や肉。
あとは適当に売れるものを並べて……。
「よし……! あとは客が来るのを待つだけだ……」
「……って、誰も来ないにゃ……」
「そ、そうだな……」
事前の宣伝が足りなかったのか、ろくに誰もやってこない。
俺の家や孤児院は少し街の繁華街とは外れたところにあるから、わざわざ誰もこんなところまで買い物にこないのだろう。
昼過ぎにジャスミンさんが石鹸を買ってくれただけで、あとはほぼ誰もこない。
夕方になってミーナさんがやってきたけど、知り合いばかりだ。
「はぁ……なにかいい方法はないかな……」
「とりあえずぼくは明日は食堂のほうで忙しいにゃ」
「そっか……なにか考えるしかないな……」
それから俺は一晩、作戦を練った。
そしてあることを思いついたのだ。
◆
まず、今日はレベッカがいないので休みにする。
どうせ客はこないんだし、しめても問題ないだろう。
それから俺はまるねこ食堂へ行ってレベッカをたずねた。
「おいレベッカ」
「にゃ”!? ショウキチ、店はどうしたんにゃ!?」
「いいから、余ってる料理くれ」
「いいけど……どうするの? こんなの……」
「これを弁当箱につめて……っと」
俺はレベッカのまかない弁当を持って、街を歩き回った。
そしてどこかで建設をしていないかと探す。
「お、あった……」
ちょうど工事中の建物を発見する。
そこにはドワーフの職人たちが汗水たらして建材を運ぶ姿があった。
「ねえねえ兄さんたち、これうちの店の試作品なんだけど。よかったらただでいいんでどうぞ」
俺は彼らに弁当を手渡した。
みなれない木の箱を見て、怪訝なかおをするドワーフたち。
「なんだこの箱は? 俺たちをからかってるのか?」
「開けてみてくれって」
「……いいけどよ。……って、おいなんだこれ!?!!? めちゃくちゃうまそうじゃねえか!」
肉体労働で疲れている彼らにとって、それは宝の箱だった。
彼らは次から次へと集まってきて、弁当にがっついた。
「なんだこれうめえ! どこで売ってるんだ!」
「ショウキチ商店ですよ! よろしく!」
「ああ、こんど絶対に買いに行く!」
俺は少し離れて、彼らの様子をみまもった。
すると、あまりにもうまそうに飯を食う彼らのもとへ、人だかりができる。
「おいなんだその箱。うまそうだな……」
「ああ、これがあれば食堂にいかなくても済むぜ!」
「工事現場で食えるなんて便利だなぁ……」
「なぜかどれもこれも新鮮だしよぅ。不思議な箱だぜ」
「ああ確かにスープはあったかいし、野菜は冷たくフレッシュだ!」
そう、彼らの言ってることはすべて俺が魔法でやったことだ。
弁当箱の一部をあったかい状態に設定し、一部の部分を冷たく設定する。
氷魔法と熱魔法を応用すれば、このくらい今の俺には造作もない。
しかもスープも魔力の薄い膜で固定してるから、こぼれたりしない。
あとは彼らに宣伝を任せれば、自動的に広まっていくだろう。
◆
俺の作戦どおり、翌日のショウキチ商店は大行列ができた。
朝からレベッカ弁当を目当ての客がたくさん並んでいる。
その中にはもちろん、昨日の工事現場の連中も。
「あれ……あいつらってまるねこ食堂の常連じゃねえか?」
「そうにゃ。昨日ぼくが宣伝しといたにゃ」
「やるなぁ……さすがレベッカ。人気がすげえ……」
たぶんあいつらはレベッカのファンだから、それ目当てだろうな……。
会計できるカウンターは一応ふたつ用意したのだが、レベッカのほうだけ人が多い。
まあレベッカの手売りお手製弁当なんて、やつらからすれば喉から手が出るほどほしいだろう。
レベッカを知らずに来た工事現場の連中も、途中からレベッカの列に並び出した。
まったく男ってやつは……。
なんだかそのレベッカのもちもちお餅を俺だけが独占できている状況に優越感を感じてしまう。
それだけじゃなかった。
レベッカ弁当目当てできた奴らはみんな、一度家に帰って金を持ってきて、それからレベッカフィギアを買っていったのだ。
たぶんあれは嫁さんに怒られるんだろうな……。
とにかくレベッカのおかげで、店はいいスベリだしを切った。
ついでに石鹸とかも売れるし、良い感じで誘導できているな。
さすがに将棋とかはまだよくわからないだろうし、全然うれていない。
いちおう工房のドワーフの中ではひそかなブームになりつつあるらしいが、まだまだ広まるには時間がかかるだろう。
まあそれも工房をおとずれた客に布教してくれてるみたいだから、時間の問題かもしれん。
「そうだ……! レベッカの彫刻を掘った将棋盤をつくろう! プレミア価格でも買うやついるだろ! 盤を売ってから将棋を覚えさせりゃいい!」
俺はこの素晴らしい思い付きに、手をぽんと打ってよろこんだ。
レベッカが白い目で見てくる。
「ショウキチ……現金だにゃ……。商売上手かもしれないけど……」
◆
【あとがき】
こちら新連載を開始しました。
《永久持続バフ》と【なんでもレベル付与】でレベルのない世界に『成長革命』!才能のない付与術師の僕が、実はみんなを成長させていた!?追放されたとたん、勇者パーティの能力が下がって破滅したけどもう遅い!
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