俺だけもらえるベーシックインカム~人生疲れて生きる意味を見失っていたけど、異世界行ったら余裕でした。
月ノみんと
第1話 当選
もし、金と時間に余裕があって、なんにも縛られないで生きられるとしたら――。
あなたは何がしたい――?
◇
駅前でそんな広告を見かけるたびに、俺はうんざりした気持ちになる。
だって、そんなこと……ありえないだろ?
少なくとも今の俺にとっては――。
◇
「あぁ……もう働きたくねぇ……!!!!」
仕事から帰った俺は、勢いよくベッドに倒れ込む。
佐藤
もともと働きたくなんかなかった俺に、無理にでもと就職をさせた親が憎い。世間が憎い。
まさかこんなに仕事がキツイとは思わなかった……。
大学時代に、鬱で引きこもりになった俺にはまだ、社会は厳しすぎた。
かといって寝ているだけでも腹は減り続ける。
産まれてしまったがために、我々は嫌でも働き続けなくてはならないのだ……。
しかも気になっていた同僚の女の子を、いけ好かない上司に寝取られてしまった。
もういっそ自殺でもしようと考えたが、そんな勇気もなくだらだらと会社に居続けている。
我ながら情けないが、どうすることもできない。
「ああ……もういっそ異世界転生でもしてぇなぁ……」
家にいる間は、現実逃避に、アニメばかりを見ていた。
大学時代に鬱で引きこもっていたときは、もっぱら日常系萌えアニメばかりを好んでいたが……。
曲がりなりにも働き始めた今、俺のメインディッシュは異世界転生もののアニメだ。
あれはいいものだ。ここではないどこかに連れていってくれる。
まさに仕事で疲れた脳みそと精神を回復させるには最適だった。
「どこかに働かずに生きていく方法とかねぇかな……」
そんなことをぼんやりと考えながら、ゲーミングPCの電源を入れる。
お年玉をコツコツと貯金して、大学時代にプロゲーマーにあこがれて買ったはいいものの。
今となってはネットサーフィンにその大半を費やしている。
もはやゲームを起動することさえも億劫だ。これが歳ってやつなのか? くそ、まだ若いのに……。
日頃の運動不足がたたって、昔みたいに身体が思うように動かない。
目も疲れやすくなったし、集中力も切れやすくなった。
「はぁ……俺、なんのために生きてんだろう……」
職場とコンビニと、この部屋との行き来を繰り返して。
好きだったはずのアニメもゲームも、前ほど素直に楽しめなくなっていた。
コンビニで買った温かみのない安物弁当のふたを開け、PCデスクに置いた。
アルコール度数の異常に高い安酒を開ける。
食器を洗うのは面倒だから、すべて割りばしと紙コップだ。
まあ、そんなことをしているから金が溜まらないのだと言われればそうなのだが。
とにかく俺には余裕がない。
心にも、身体にも、もちろん、金銭的な面でもだ。
俺は酒を飲みつつ、弁当をつまみながら、ネットサーフィンに興じる。
「ほう……ベーシックインカム……」
どうやら最近は、そういうものがあるらしい。
働かなくても、金がもらえる制度だ。
俺はそれについて、某有名人が語っている動画を見つけた。
最近はやっているらしい切り抜き動画とかいうやつだ。
「なるほど……これは俺にぴったりの制度だ! 導入はよ!」
本当にそうなればいいのに……と思いつつも、まあそうならないんだろうなとも思う。
こんなのは所詮、机上の空論だ。
少なくとも俺の生きているうちには実現されないだろう。
「ま、来世に期待だな……!」
そっと、ブラウザを閉じようとする。
すると、ピコンという軽快な音と共に、新しいブラウザが開いた。
「あれ……? こんなの開いてないのに……ウイルスか……?」
しばらく読み込み画面が映ったあと、ページが切り替わる。
《おめでとうございます!》
「はぁ……?」
なにか詐欺くさいページだな……。
こういうやつに引っかかるような奴いるのか?
あまりにも見え見えすぎる。
《あなたは当選しました!》
「あーはいはい……っていうか……何にだよ……」
宝くじに当選とかだったら嬉しいけど。
あいにく、そういうものを買った覚えはない。
新手の詐欺広告かなにかだろうな。
俺はそのページを閉じようとするが……。
「あれ……閉じれない……」
バツをクリックしても、ブラウザが閉じない。
これは面倒なウイルスだなぁ……。
俺のいらだちを煽るように、広告ページはまた切り替わる。
《あなたはベーシックインカム実験の被験者に選ばれました!》
「おいおいマジかよ……」
さっきまでベーシックインカムの動画をみていたからか……?
この検索エンジンってやつは、本当になんでもお見通しなんだな。怖……!
俺の調べていたことに関連した広告をピンポイントでもってきやがった。
「それにしても、こんなの嘘としか思えないって……」
《ベーシックインカムの受け取りのために、住所をご登録ください》
PCの画面に、住所登録画面が映し出される。
「おいおい……冗談じゃねえ……!」
その住所欄の選択肢には、俺の住所がガッツリと書いてあった。
「こんなん入力した覚えねえぞ!?」
どこで俺の住所を引っこ抜かれたのかはわからないが……。
これはマジでヤバい……! ハッキングされてるのか……!?
なんだか怖くなってきた……。
「クソ……! 消えろ!」
俺は住所登録の項目から、必死に自分の住所を消そうとした。
しかし、画面は入力されたままだ。
このままじゃ俺の家に得体の知れないものが届いてしまう!
「もしかしたら、別の選択肢を選べば……!」
そこに並んであった住所の中から、適当に別のものを選ぶ。
なにか外国語で書かれた、外国の住所。
とりあえずそれをクリックする。
《住所登録が完了しました!》
《受け取り地は【%#$$#”&*‘‘***】ですね?》
わけのわからない住所を選んでしまった……。
しかし、俺の家の住所を選ぶよりはましだろう。
この家になにか送られてきたら、大変だからな。
先に進むにはこうするしかなかった。
まあ、引っこ抜かれて困るような情報もないし、このPCだってもはやどうでもいい。
金はないし、PCにもろくな情報なんて入っていないんだ。
だからウイルス対策ソフトだって入れていない。
しばらくするとようやくページが切り替わり――。
《新世界秩序機構をご利用いただき、ありがとうございました!》
《それではよい生活を……!》
そう最後に表示され、ページは閉じた。
「ふぅ……やっと消えた……」
ウイルスによる悪質な広告ページは、ようやく消え去った。
もうなにもないといいが……。
「もう疲れた……とにかく今日は寝ようか……」
俺は、もうなにもかもめんどくさくなって、そのまま目を閉じた。
ああ……できるなら、産まれなおしたい。
そして、仕事をせずに遊んでくらしたい。
かわいい女の子たちに囲まれて……。
自堕落な暮らしを永遠に……。
そして俺の意識は夢の中に落ちていく――。
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★あとがき★
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