第26話 世界の全貌


「お、お前……マジでシロなのか……!?」

「ワンワン!」


 大きくなったシロに、俺は困惑を隠せない。

 もしかしてシロは、ただの犬じゃなかったってこと!?

 昔動画サイトで、こんな大きな犬を見たことがあるな。

 狼犬とかいう、狼と犬のハーフ。

 あれ、かっこいいんだよな。

 でもこいつはそれよりもさらにでかい。

 シロは、尻尾を振って俺に合図してきた。

 自分の背中をこっちに向けて、俺を誘導する。


「乗れってことか……?」

「ワン!」


 たしかに今のシロは、人を二人くらい背中に載せて運べそうだ。

 俺は恐る恐る、シロの背中にまたがった。

 すると、シロはいきなり猛スピードで草原を走り出した。


「うわ……!?」

「ワンワンワン!!!!」


 ――ドドドドドドドドド。


 まるで車くらいのスピードで、どんどん走っていくシロ。

 俺は振り落とされないように、必死で背中につかまった。

 すごい、こんな経験したことない……!

 もふもふの背中につかまり、風を切る。

 とても爽快な気分だった。


「これ……どこまで行くんだ……!?」


 シロがどこを目指しているのか想像もつかない。

 俺たちはいつものようにクエストで草原にいたわけだけど……。

 街に戻るにしても、方向が違う。

 シロが目指しているのは、街とは反対の方向だ。

 次第に草原を抜け、森へ入る。

 森の中でもシロのスピードは変わらなかった。

 ものすごい勢いで、突き進む。

 やがて、急な斜面に差し掛かる。


「おいおい……まさかお前、山を登る気か……!?」

「ワン!」


 そのまま無理やり山を登っていくシロ。

 異世界にきてからこんな遠出をしたのは初めてだ。

 まあ馬を使えばそこそこ遠くに行けるのだろうが、こっちには車もないしな。

 だがシロは馬なんか目じゃない速さでここまでやってきた。

 こいつがいれば、どこへでも行けそうだ。


「うおお……すげぇ……」


 いつの間にか、山頂についていた。

 そこでシロは立ち止まり、俺をおろした。

 かなり高い山だということが、今にしてわかる。

 ここまで一瞬で登ってきたから、実感がなかったが、下を見下ろすととんでもない高さにいる。

 おそらく富士山級だぞこれ……。

 まあ異世界だし、これが最高峰ということもないだろうが……。

 それでも、俺が今までに上ったどんな山よりも高い。


「でも……すごい景色だな……」

「ワン……」


 俺は感動を覚えていた。

 山の上からは、この世界が一望できるような気がした。

 もちろん、ここから見える世界だけがすべてじゃない。

 だけど、こうやって上から見下ろすことで、ようやくこの世界が異世界であるという実感がわいてきた。

 目に映るものすべてが、どれもこれも俺の知っているものとは違っている。


「すげぇ……やっぱここ異世界なんだな……」


 今まで街の中で何気なく暮らしていたから、そこまで世界について考えもしなかった。

 だけど、この景色を見たことで、世界の広さや壮大さを改めて理解した。

 っていうか、なんでシロはここに連れてきてくれたんだ……?


「おい、シロ……。俺にこの景色を見せたかったのか……?」

「くーん」


 シロは首をかしげて、不思議そうにしている。

 どうやらそういうわけでもないようだ。

 ていうか、シロもこんなところ来たことないだろうし……。

 衝動的に走ってきちゃったのかな?

 そこに山があったから上ったのだとか、言わないよね?

 だけど、いずれにせよシロには感謝だな。


「ありがとうなシロ、素敵な景色を見せてくれて」


 俺はもう一度、シロを撫でた。

 ここまで大きくなられていると、なんだか頭をなでるのも変な感じだ。

 だが、ひとたび俺がシロをなでると、シロは怖い顔を優しくゆがめて、気持ちよさそうにした。


「はは、やっぱシロはシロだな」


 しばらく山頂から景色を堪能していると、突然、またシロが走り出した。

 今度は俺を置いて、山の霧の深い中へと入っていく。

 やばい、あそこは見るからに危険そうだぞ……。

 俺は歩きだし、とてもついていけない。

 置いてかれでもしたら、死んでしまう。

 まあ、シロがそんなことをするとは思えないが……。


「あ、おい……! シロ……! どこ行くんだよー」

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