第4話 家を買う


「こんにちはー」


 俺は家を借りるために不動産屋の扉を開けた。

 不動産屋は大きなレンガ作りの建物で、いかにも儲かっているという感じがした。


「いらっしゃーい」


 カウンター越しに出迎えてくれたのは、豊満な胸の綺麗な女性だった。

 赤茶色のショートカットが素敵なボーイッシュなスタイルの女性だ。

 一目見て胸のことから話すのは我ながらどうかと思うが、そのくらいインパクトがある大きさなのだから仕方がない……。

 しかもオーバーオールの紐がおっぱいを強調しているからどうしようもない。

 なかなかギャップがあって魅力的な人だ。


 あれ、最初は胸に見とれて気づかなかったけど、頭に茶色い猫耳のようなものがついている。

 この子、獣人というやつだろうか。

 さすがは異世界だなぁという風に思う。

 そうやってしばし見とれていると……。


「あの……? お客さん……だよね……?」

「あ、すみません……! ぼーっとしていました……」


 女性は俺のことを不思議そうに見ながらも、不快には思っていない様子だ。

 まさか自分の胸の破壊力に自覚がないんだろうか……?

 それとも単に見られ慣れてるだけか……?


「ああ、敬語はいいよ。ぼく、そういうの苦手なんだよねぇ……えへへ……店長にはいつも注意されるんだけど、今はいないからさ」


 女性は子供のように無垢な笑顔でそう言った。

 俺は心の中で大きく叫んだ。


(な、なにいいいいいいいいいいいいいいい!?!!?!?? その胸でぼくっ子だとぅおおおお!?!??!)


「ど、どうしたのお客さん……!?」

「い、いやぁ……なんでもない」


 俺はようやく落ち着きを取り戻した。


「ぼくはレベッカ。君、新しくこの街に来たんだろう?」

「ああ……俺はショウキチ。なんでわかるんだ……?」

「だって、見ない顔だしさ。それで、家を探してるのかな?」

「ああ、そうだ。話が早くて助かる」

「それで、予算は……?」


 レベッカはそう尋ねながら、不動産のリストをパラパラめくる。

 いきなり予算をきかれても、俺はまだこの世界の物価がわかっていないんだよなぁ。


「えーっと……とりあえず今手元に1,255,000Gはあるんだけど……」


 俺は何の気なしに自分の所持金を読み上げる。

 すると、レベッカは目を丸くして驚いた。

 パサァ――。

 彼女の持っていた書類が静かに地面に落ちる。


「にゃぁ……!? い、今なんて……!?」

「え……? だから、1,255,000Gあるんだけど……」


 獣人だからか、にゃあ……だなんて驚き方、かわいいな。

 というか、そんなに驚くような金額なのだろうか。

 まあ、最初の月は支給金額が多めだってあのAIが言ってたしなぁ。

 家を借りられるほどの金額なのだったら、持ち歩くには多いくらいか。

 と、納得する。

 しかし、俺のその見立ては間違っていた。


「も、もしかしてショウキチはそのお金の金額よくわかってない……?」

「ああ、うん。外国から来たもんでな……。よかったら説明してくれないか?」

「こ、これだけあれば家を借りるとかじゃなくて、一軒家が買えちゃうんだけど……。それも即決で」

「え…………マジか…………」


 俺は手先が震えるのを感じた。

 まさかそれほどの金額だったとは……。

 じゃあつまり、俺に支給された金額は家を借りるためのお金・・・・・・・・じゃなく、家を買うためのお金・・・・・・・だったってわけか……!?

 こっちでの生活は保障されていると聞いてたけど、まさかこれほど手厚いとは……。


「じゃ、じゃあ一軒家……買っちゃおうかな」


 まさかこの歳で夢のマイホームを一括払いで買うことになるなんて……。

 昨日までは考えもしなかったことだ。


「にゃあ。じゃあ候補のリストを持ってくるね! ショウキチ、お金もちなんだね」

「いやぁ、たまたま……運が良かっただけだよ……」


 レベッカは棚から購入可能な家のリストを取り出して、俺に見せてくれた。

 大小さまざまな家があるが、正直どれがいいのかわからない。

 それに、この金を全部使ってしまうわけにもいかないしな。

 これから来月までは金の支給がないんだ。

 残りの生活費を残しておかなくちゃならない。


「なあレベッカ。この中からおすすめの物件を選んでくれよ。一月分の生活費が残ればいいからさ、その予算内で」

「そうにゃ? わかったよ! ぼくがショウキチのためにとっておきの家を選んであげるね!」

「ああ、頼む」


 俺に頼られたことがうれしいのか、レベッカは「ふんふ~ん」と鼻歌交じりに機嫌よく家を選び始めた。


「じゃあこれなんかどうかにゃ? ぼくもここなら納得!」


 自分が住むわけでもないのに、レベッカはそう言って一つの物件を指さした。

 レンガと木造の入り混じった、おしゃれなたたずまいの一軒家だ。

 どうやら孤児院の裏に建っているようで、共用の井戸も使えるらしい。


「おお、これはいいな……!」

「じゃあとりあえず見学に行こうか……?」

「ああ、頼む」

「ふんふ~ん」


 またしてもレベッカはご機嫌に支度をし始めた。

 どうやらこのまま彼女が家まで連れていってくれるみたいだ。

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