【第2章】その28✤ベアトリスの記憶---その1
大好きだったお父様とお母様を相次いで亡くし、他の親族に引き取られることになったまだ8歳の頃の私は、不安な気持ちでの旅路だった。親戚と言っても会うのも初めてだったから……。
「ヨーク公リチャード公の奥方セシリー様はお子がたくさんおられて、御本人様もお子様好き。それにベアトリス様と同じ年くらいのお坊ちゃま方もおられるとか……だからきっと大丈夫ですよ」と、いつも私の世話をしてくれていたお姉さんのように優しかった女官の一人が教えてくれた。
城に着いて、最初に会ったのは2人のエド---エドワードとエドムンドという名前の兄弟だったのだが、エドワードはなんでもこのヨーク家の跡取りということで、私と同じ年だったけれど、既にその誇りを身に纏(まと)っていた。
「2人のエドね」とうっかり言ってしまって、後で
「エドワード様はこのヨーク家の御曹司でおられます、お口にはお気をつけあそばせ」
と、この城の女官に怒られてしまったが、エドムンドが私にも
「じゃあ、君はリシィ」とニックネームを付けてくれたので、私もエドムンドのことはそのまま“エド”と呼ぶ事になる。
エドはいつでも笑い顔の、明るくて楽しい男の子だった。私より年が半年ほど下で、やはり私より半年ほど年上で、その上皆から御曹司と大事にされているエドワードより一緒にいて話もしやすかった。
でもそれはエドワードが御曹司というだけではなくて、いつもあまり笑わない上に無口なので、だから一緒に何かをしたり、話したいと思えなかったということもある。エドとなら普通に話せることが、エドワードと向き合うと普通の話も出てこない、ということも多々あったのだ。彼の身に纏った冷たさのようなものは、少年の頃からだった。それがいったいどこから来ているのか不思議で仕方なかった、というのはエドワードの弟のエドも妹2人もエドワードとは全く違うタイプで、3人はいつでも笑い転げ、それをエドワードが遠くから冷たい目で見ているという印象だったのだが、なぜエドワードはあんなにも自分の兄弟達に冷たく接していたのか。ヨーク家の跡取りという気概のせいだったのかもしれない。
そもそもエドワードは容貌も弟や妹達もあまり似ていなかった。エド達4人はプラチナブロンドだったが、エドワードだけは普通の金色の髪で、それが理由でなんとなく似ていない印象になっていただろうか。でも髪の色だけではなくて、顔の雰囲気も一人だけ似ていなかった。不思議なくらいに……。そして他の兄弟に比べて背もとても高いために、威圧的に見えたのかもしれない。
まだ自分自身も幼かった私には、同じ年なのに大人びているエドワードよりも、くだらない冗談を言って笑い会える年下のエドの方が一緒にいてくつろぐことができたのだ。
そもそもエドワードは容貌も弟や妹達もあまり似ていなかった。エド達4人はプラチナブロンドだったが、エドワードだけは普通の金色の髪で、それが理由でなんとなく似ていない印象になっていただろうか。でも髪の色だけではなくて、顔の雰囲気も一人だけ似ていなかった。不思議なくらいに……。そして他の兄弟に比べて背もとても高いために、威圧的に見えたのかもしれない。
ところでエドの妹達のエリザベスやマーガレットだが、私よりほんの少し幼かった2人は私を姉のように慕ってくれて、よく3人で物語を作ったりして遊んでいたので、最初はエドとも一緒に遊ぶことは少なかった。毎年のようにお子が産まれていたセシリー様は常に赤子の世話で忙しく、当時、6歳と4歳だったエリザベスとマーガレットは私が来たことをとても喜んでくれていたのだ。2人は可愛らしくて、本当に時々天使のようだった。彼女達と共に過ごす時間は幸せで、そんな時は私自身も、両親が亡くなったしまったことを忘れることができたのだ。
そしてこのラドロー城の庭には大きな植物園があり、そこでは野菜やハ-プの他にたくさんの美しい花々も栽培されていた。ミモザ、百合、水仙など季節ごとに色々な花が咲いていたが、なんといっても美しかったのが薔薇だった。色々な大きさや色の薔薇があったので、初夏には私はよく一人で薔薇を見に行ったものだった。お母様も薔薇の花が好きで、うちの庭にもたくさんの薔薇があったので、薔薇を見ると父や母を思い出してならなかった。
ある日の夕方、一人薔薇を眺めていると、先の木立に人影があった。後ろ向きでわからなかったがそうっと近づいてみるとエドだったが、肩が震えている。
私に気がついて振り向いた彼の瞳は涙で濡れていた。
びっくした私は
「エド?」と声をかけると
泣いている姿を見られ、気まずい顔をしていたが、
「どうかしたの?」と私が聞くと、
「エドワードが……」と話し始めた。
なんでもエドはエドワードと遊びたいのだが、エドワードにいつも断られるのだとか。小さい時からエドワードはエドのことを弟のように接したことはないように思う、とのことだった。
「兄さんは僕のこと嫌いなんだと思うけれど、なんでかわからない、僕は兄さんが好きなのに…」
明日は2人で城内の森を散策する約束をしていて、随分前から楽しみにしていたのに、さっき突然に、
「やはり明日は行かない」と言われたのだとか……。
当時まだ8歳になる前だったエドにとってはそれは大きな出来事だったのだろう。
それでもつい言ってしまった。
「でも……あなたは良いじゃない、本当の兄弟も可愛い妹達も、それにお母様やお父様もいて……私には誰もいないわ……」と……。
そしてその時からだった。
エドがいつも私の側にいてくれるようになったのは。
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