【第2章】その26✤エドワードの告白---その1

 私の母セシリー・ネヴィルは毎年子供を産んでいたので、兄弟姉妹がたくさんいた。子供達は小さい時は皆ほとんどバーミンガム近郊のラドロー城で暮らしていたのだが、そこには親戚の子供達もよく遊びに来ていたし、兄弟姉妹のようにそのまましばらく滞在している子供達もいたものだ。


 その親戚の子供の中に、一人笑顔が輝くほど美しい少女がいた。栗色の美しい髪---私はプラチナブロンドの髪を持つ人間があまり好きではない---何故なら1歳年下の弟のエドムンドが嫌いだったからなのだが、彼は輝くような金色の髪を持っていた。私の兄弟はエドムンドの他、エリザベスもマーガレットもプラチナブロンドで、私にしてもやはり金髪だった。エドムンドは人と話すことが苦手な私と違って、小さい時から社交的で、母セシリーにも可愛がられ、父リチャードのお気に入りのようでもあった。そんなエドムンドのせいで、なんとなく金色の髪の中でも特にプラチナブロンドを持つ人物は虫が好かなかったのだ。


 そう、でも彼女は、リシィは実に美しい髪を持っていた。深い栗色の髪、そしてなんといっても美しいのは彼女の青い目だった。澄んだガラス玉のような、湖を思い出させる不思議なブルーの色---見ていると吸い込まれそうになる美しい瞳……。



 初めて彼女がここに来たのは8歳の時で、母がこう言った。

「明日ランカスター家から親戚の姫が来るのよ、彼女はお父様に続き、お母様も亡くされてしまったため、しばらくここで預かることになりました」


 実は少し訳(わけ)ありの姫だった。ランカスター家の前国王ヘンリー5世が愛人に産ませた息子ジョンの、その息子ジョージの娘だった。なぜランカスター家の姫をうちのヨーク家で預かることにしたかと言えば、その姫の母親というのが、母セシリーはじめ父リチャードも、またヘンリー6世も、多分イングランド中の皆が尊敬して止まない、ランカスター家のジョン・オブ・ゴーント----その彼のひ孫に当たるテレサ(祖父母はポルトガル国王夫妻のジョアン1世と王妃フィリパ・このフィリパがジョン・オブ・ゴーントの娘)だったということで、この娘を預かっておくのはヨーク家にとっても決して損にはならないと考えてのことだったのだろう。


 ヘンリー6世はその偉大なるジョン・オブ・ゴーントの直系のひ孫なのだが、私の母セシリーはジョンの3番目の妻の孫であり、彼女自身はその自分の血を大変な誇りと思っていたものだ。でもヘンリーは高貴な母を持つ本家であり、そのヘンリー6世にとって母セシリーは”愛人上がりの家系の親戚”くらいにしか思っていなかったことだろう。


 ジョンの最初の妻であるブランシュ---ヘンリー6世の曾祖母は「英詩の父」と評されるイングランドの詩人チョーサーに「白の貴婦人」と賞賛された程の美女であり、その上家柄も申し分なかった。


 一方、ジョンの3番目の妻---母の祖母であるキャサリン・スウィンフォードは、騎士の出身で大した家柄もなく、もともとはブランシュの娘達の教育係として雇われ、どうやらその頃からジョンの愛人だった。


 その言わば“妾の分家”の子孫である母セシリーを自分の親族とは思えないヘンリー王の気持ちは理解できたし、母も内心ではわかっていたのだ---本家の王子や姫達と自分は同じ立場ではないということは。


 でも勝ち気であった母は

「かの偉大なるジョン・オブ・ゴーントに一番愛されたのは、私のお祖母様のキャサリン・スウィンフォードなのよ」と良く言っていた。


 なので、今回ヘンリー5世のひ孫に当たる娘、しかも公(おおやけ)に公表するのは多少ためらわれるこの姫を預かるのは、祖母の代から“妾の分家”と軽んじられてきた母セシリーにとって、彼女の長年のコンプレックスをひっくり返すための、一種の仕返しのようなものでもあったかもしれない。


 公表することを躊躇(ためら)われた理由というのは、この姫の両親・ヘンリー5世の庶子であるジョンの息子ジョージと、ポルトガル国王ドュアルテ1世の、しかしこちらもやはり庶子である娘のテレサの2人は、実は密かに結婚し、この少女を授かってしまった。


 2人は親が許す前に勝手に結婚し、その上子供を授かった時には、ジョージとテレサはたった17歳だったのだ。


 通常であれば公表して結婚を祝福してもらえたはずの2人だったかもしれないが、ジョージは既に父ジョンが決めた別の婚約者がいて、テレサ自身は修道院へ行くことが決まっていたのだ。私達貴族、とりわけ王族の結婚は恋愛結婚などは有り得ないものなので、好きだからと言って結婚を許されるようなことはまずなかった。


 しかし王家の血筋の2人だったので、なんとか秘密裏に3人で暮らすことは許されていたのだが、ジョージは生まれつき体が弱く、テレサもまた心臓が悪く、最近相次いで亡くなってしまったのだ。


 母セシリーはもしかしたらそんな姫に同情したのかもしれない。自分の家族のように、庶子の家系から生まれたという姫に---いや、それでもリシィはイングランド王家とポルトガル王家という2つもの王家の血が流れていることは間違いない。当時の我が家も王家の親族ではあったが、リシィほどには王家に近い血筋ではなかったのだから……。


 母は自分自身も兄弟が多く、そして自分も子供を多く産み、なのでもともと子供好きでもあった。貴婦人でありながら、自分で子供の世話をすることも厭わない女性でもあったのだ。


 新しい姫が来るのが嬉しかったのか

「その姫はあなたと同じ年なのよ」と楽しそうに話していた。


 リシィは私達の城へ来た。

そして初めて会った時に、その明るくて美しい彼女に、私は恋をしたのだ。




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ベルギーに近いドイツ在住の地の利を生かして、InstagramやTwitterではマリー・ド・ブルゴーニュのゆかりの地ベルギーのブルージュで見かけた、マリー姫に関連するものをご紹介していきます。



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