【第2章】その27✤エドワードの告白---その2
リシィは初めて私とエドムンドに会った時、クスッと笑って
「二人共、エドなのね」と言ったが、女官たちに咳払いされ、私のことはエドワードと呼び続け、ただし弟のエドムンドを「エド」と呼んだ。
私はヨーク家の長男であり、後継者だけではなく、分家ではあってもイングランドの王位継承権もあったので、私と気軽に接することは避けるように周りが気を付けていたため、リシィも同じように気を付けようとしていたのかもしれない。
それでエドムンドもお返しのように
「じゃあ、君はリシィ」とあだ名で呼ぶようになり、皆が彼女をリシィと呼ぶようになった。 彼女の名前はベアトリス---ベアトリスとは「喜びと幸せの運び手」という意味の名前なのだが、リシィというその呼び名は、明るい彼女にピッタリだった。
私の一番上の姉アンは、私より3歳年上だったが、8歳の時には既に嫁ぎ先が決まっていて、その嫁ぎ先のエクセター公ヘンリー・ホランドの邸宅へ引っ越していたため、下の妹エリザベスとマーガレットはリシィが来たことをそれはとても喜んで、2人で彼女の側をまとわりついていた。私達が8歳の時、エリザベスは6歳でマーガレットは4歳だったのだが、3人はまるで本当の姉妹のように、いつも一緒に過ごしていたのだ。リシィは妹達にとても優しかったので、母セシリーもとても満足していた。
リシィは本も読める少女で---というのは、彼女の父親だったジョージは身体が弱く屋敷内ではいつも本を読んでいたらしい。彼女もその父親から英語やフランス語の本を読むことはもちろん、ラテン語で本を読むことを学んだそうだ。通常父親は子供達と共に生活しないのが私達貴族の生活なのだが、リシィの両親は色々な事情からリシィと共に3人で生活することを許されていたらしい。
我が家の当主である父リチャードが私達と会うのは年に数回のことなので、リシィの家族の話を聞いた時には平民の生活のようだとびっくりしたのだが、エドムンドが
「良いなぁ、リシィは。うちの父上もいつも僕たちと一緒にいてくれたら良いのに」と言っていた。
エドムンドは、屈託のない 言い方で、その場の雰囲気をふと和ませることができる才能があった。
たまにリシィが両親を思い出して暗い顔になる時、それに気がついているのに気の利いたことのひとつも言えない自分とは違って、そんな時エドムンドは屋敷の外で飼われている猟犬や馬や鳥などを見に行こうと彼女を誘ったり、そのまま2人で近くを流れる川で遊んでくるのか、服をびしゃびしゃにして帰宅して女官達を怒らせる時もあった。
最初は「兄さんも行こうよ」と誘われていたのだが、決して行きたがらない私をそのうち誘わないようになり、外で遊ぶ時は猟犬を連れてよく2人で散歩へ出かけていた。
今でも悔やまれる……なぜ自分はその時一緒に行きたくなかったのか……。
でも一緒に行っても、リシィはエドムンドと楽しそうに話し、無口な私は2人の会話にすんなりと入っていけなかったのだ。2人の明るく輝くような姿が眩しくて、見ているとそうなれない暗い自分が悲しくなり、ますますその場の雰囲気がぎくしゃくするのを感じていた。そもそも皆から可愛がられていたエドムンドのことは、子供の頃からあまり好きではなかったので、その嫌いな弟と楽しそうに喋っているリシィを見るのもつらかったのだと思う。
リシィが楽しそうに笑っている時、妹2人に優しく物語を聞かせている時、本を読んでいる時、庭を歩いて草花の世話をしている時、どの姿も天使のように美しかったが、湖のように深い青色の目が光り輝くのはいつでも弟が彼女の側にいるときだった。
そして12歳になった私は一足先に騎士になる準備のために父の騎士達の元で暮らすことになった。私達の騎士の教育は12歳になってからと決まっていたため、その教育のために弟のエドムンドより1年先に、当時住んでいたラドロー城を離れることになったのだ。
私がいないその1年の間に、エドムンドとリシィの間は急速に近づいていったのだろうか。1年遅れてやってきたエドムンドは騎士の稽古中も時々寂しい顔をすることがあった。
それでも弟は、私よりどういうわけか武芸にも秀でていた。剣の稽古では、私はどうしても弟に勝つことができなかった。父の騎士達から評価されるのはいつもあいつだった。
そして嫌だったのは、たまに2人でラドロー城へ帰れば、リシィが嬉しそうに見つめるのは、エドムンドだけだった。 私が側に立っているのも忘れて、2人はお互いを長く見つめていることがあり、その時は弟に殺意さえ感じた程だった。
弟の何もかもが気に入らなかった私は、いつか弟に仕返しをと、考えずにはいられなくなっていたのだ。
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