【第2章】その46✤ついに王座が目の前に

 ロンドンへ戻ったエドムンドを待ち受けていたのは、嬉しい知らせだった。


「エドワード3世の三男ライオネル(ちなみにランカスター家はライオネルの弟ジョン・オブ・ゴーント血筋で、その上ヨーク公リチャードはそのライオネルとジョンの2人の弟に当たる、エドムンドの血筋の直系でもあった)の娘の血筋を引くヨーク公リチャードが最も王位継承者としてふさわしい」というヨーク側の長年の言い分がやっと認められ、


《ヘンリー亡き後の王位はヨーク公リチャードとその子孫に継承される》


と議会についに承認されたのだ。


 ただしヘンリー6世が生きている間はヘンリーが王位にとどまる、ということになったが、ヘンリー6世は敗戦したとはいえ、法律的にはまだ王位の地位のままであったのに、ヨーク公リチャードはなんとその玉座に手を乗せるという皆が仰天する振る舞いをしてしまい、貴族達の反感を買ってしまったヨーク公リチャード本人はこの提案を受け入れざるを得なかった。


 それにそもそもその時のヘンリー6世は多大な心労によって精神病が悪化していて、もう既に生きる屍のような状態であり、どのみちヨーク公リチャードのもとに全ての権力は集まるだろうということは明白だった。


 この議会の承認で、王位がヘンリー6世とマーガレット王妃のたった一人の嫡男エドムンドへ継承されるという可能性はなくなり、今後はヨーク家がイギリス王家となるという決定が成されたのだ。


 ヨーク公リチャードは息子のエドワード、エドムンド、そして義理の兄ソールズベリー伯と甥のウォリック伯を集め、 


「勝利は我らに!!!」と高らかに宣言する。


エドワードとエドムンドの兄弟には

「そなた達はついに王家の後継者になったのだ。そして私の次を継ぐのはエドワード、そなたであろう」と、伝える。


 そして1年で最も神聖なクリスマス前ということもあり、愛しい家族が待っているラビー城に一旦帰還しようということになった。


 ソールズベリー伯とウォリック伯親子はカレーへ戻り、ヨーク公リチャードは逞しく美しく成長している息子のエドワード、エドムンドを連れてラビー城へと急ぐ。


 この頃にはすっかり190cm以上の長身になったエドワードはますます父リチャードとは似ても似つかない容貌になっていたが、実はエドムンドもまた180cmを超える長身の若者であり、この兄弟達は末のリチャード以外は父ヨーク公リチャードには誰も皆、あまり似ていなかったのである。


 世間でエドワードの出生の秘密が色々と噂されたのは、彼が嫡男であったという理由だけの、実に政治的な理由からだった。ランカスター家はなんとしてもヨーク家の評判を貶(おとし)める必要があり、重箱の隅を突くようにヨーク家の弱点を探そうとしていたのだ。


 ただその噂に一喜一憂することになったエドワードには大変迷惑な話であり、それが足かせとなり兄弟姉妹に対して自然に振る舞えなくなっていたのは気の毒なことではあった。


 ラビー城への帰還はクリスマスの1ヶ月程前、11月頃で、セシリー始め、セシリーの親族達も、そしてもちろん子供達も歓喜の中でヨーク公リチャードを迎える。


「次期国王陛下」といつも以上に豪華に着飾ったセシリーが夫を出迎え、城中は歓声に包まれた。


 また美しく成長したベアトリスを久しぶりに見て驚いたのは、9月にここに来た時のエドムンドばかりではなく、それはエドムンド以上に長い間彼女と会っていなかったエドワードも同じだった。


 エドワードも久しぶりにベアトリスを見て確信する、自分はやはり彼女を愛しているのだと。

 そしてエドワードは今この時こそ、長年の自分の思いを遂げようと考えていたのだ。



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